Apr. 2021 No.042
分子医療プロジェクトの梶原直樹主任研究員(現ウイルス感染プロジェクト)、芝崎太参事研究員(現病院等連携支援センター 客員研究員)らは「H5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスの膜透過性ペプチドによる細胞侵入機構」について英国科学誌 Scientific Reports に発表しました。
ウイルス感染プロジェクト 主任研究員梶原 直樹
インフルエンザウイルス*1は、自然界に広く分布しており、ヒト以外にも鳥などの様々な動物で検出されます。1997年、H5N1亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスのヒトへの感染が香港で報告されました。2003年以降には、アジア、中東、アフリカなどでも感染が確認され、感染者の半数以上が死亡しています。H5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスの世界的大流行が危惧されていますが、鳥のインフルエンザウイルスがヒトへ感染する仕組みは、ほとんどわかっていませんでした。
H5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスは、感染に重要なウイルス表面タンパク質であるヘマグルチニン(HA)の開裂部位に塩基性アミノ酸の連続配列を有しています。私たちは、HAの314から346番目のアミノ酸配列(HA314-46)が細胞膜を透過することを明らかにしました。また、塩基性アミノ酸の連続配列に加えて、システイン残基が細胞膜の透過性に重要であることを突き止めました。さらに、HA314-46は細胞表面のプロテオグリカンに結合し、エンドサイトーシス*2(主にマクロピノサイトーシス)によって細胞内に移行することを見出しました(図)。そして、小原特別客員研究員のグループおよび北海道大学の迫田教授、喜田教授と共同で、HA314-46の配列を持つインフルエンザウイルスは、既知の感染経路であるシアル酸を欠失した細胞にも感染可能であり、HA314-46の配列を持たないウイルスより感染効率が高いことを証明しました。
本研究の成果により、高病原性鳥インフルエンザウイルスの感染機序に関する研究がさらに進展することが期待されます。感染に寄与する新規受容体の同定など、分子レベルの解明が進めば感染阻害薬の開発につながり、高病原性鳥インフルエンザウイルスの感染対策に貢献することが見込まれます。