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H5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスの新しい感染の仕組み
~膜透過性ペプチドを用いた細胞侵入経路の解明~

分子医療プロジェクトの梶原直樹主任研究員(現ウイルス感染プロジェクト)、芝崎太参事研究員(現病院等連携支援センター 客員研究員)らは「H5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスの膜透過性ペプチドによる細胞侵入機構」について英国科学誌 Scientific Reports に発表しました。

ウイルス感染プロジェクト 主任研究員梶原 直樹


研究の背景

インフルエンザウイルス*1は、自然界に広く分布しており、ヒト以外にも鳥などの様々な動物で検出されます。1997年、H5N1亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスのヒトへの感染が香港で報告されました。2003年以降には、アジア、中東、アフリカなどでも感染が確認され、感染者の半数以上が死亡しています。H5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスの世界的大流行が危惧されていますが、鳥のインフルエンザウイルスがヒトへ感染する仕組みは、ほとんどわかっていませんでした。

研究の概要

H5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスは、感染に重要なウイルス表面タンパク質であるヘマグルチニン(HA)の開裂部位に塩基性アミノ酸の連続配列を有しています。私たちは、HAの314から346番目のアミノ酸配列(HA314-46)が細胞膜を透過することを明らかにしました。また、塩基性アミノ酸の連続配列に加えて、システイン残基が細胞膜の透過性に重要であることを突き止めました。さらに、HA314-46は細胞表面のプロテオグリカンに結合し、エンドサイトーシス*2(主にマクロピノサイトーシス)によって細胞内に移行することを見出しました(図)。そして、小原特別客員研究員のグループおよび北海道大学の迫田教授、喜田教授と共同で、HA314-46の配列を持つインフルエンザウイルスは、既知の感染経路であるシアル酸を欠失した細胞にも感染可能であり、HA314-46の配列を持たないウイルスより感染効率が高いことを証明しました。

今後の展望

本研究の成果により、高病原性鳥インフルエンザウイルスの感染機序に関する研究がさらに進展することが期待されます。感染に寄与する新規受容体の同定など、分子レベルの解明が進めば感染阻害薬の開発につながり、高病原性鳥インフルエンザウイルスの感染対策に貢献することが見込まれます。

用語解説

*1 インフルエンザウイルス
インフルエンザウイルスはA型、B型、C型に大きく分類されますが、ヒトで大きな流行を引き起こすのはA型とB型です。A型インフルエンザウイルスはさらに、ウイルス表面の二種類のタンパク質(ヘマグルチニンとノイラミニダーゼ)の組み合わせによって、H5N1などの亜型に分類されます。現在知られている高病原性鳥インフルエンザウイルスは、すべてH5とH7の亜型です。人類は高病原性鳥インフルエンザウイルスに対して免疫を持たないため、急速かつ大規模に感染が拡大し、重大な健康被害をもたらすおそれがあります。
*2 エンドサイトーシス
極性(電気的な偏り)を持ち、大きな分子は細胞膜を通り抜けることができないため、エンドサイトーシスによって細胞内に輸送される。取り込む物質の種類やその機構の違いから、ファゴサイトーシスとピノサイトーシスに分けられる。ファゴサイトーシスは免疫細胞が異物を取り込み、分解・排除する機構であるのに対して、ピノサイトーシスは、全ての細胞で行われている生理的な物質取り込み機構であり、クラスリン介在性エンドサイトーシス、カベオラ介在性エンドサイトーシス、マクロピノサイトーシスが知られている。
図1

図. H5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスのHA314-46(アミノ酸配列; TIGECPKYVKSNRLVLATGLRNSPQRERRRKKR)は細胞膜を透過する性質を示す。HA314-46はプロテオグリカンと結合し、マクロピノサイトーシスによって細胞内に移行する。

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