Apr. 2021 No.042
蛋白質代謝プロジェクトリーダー佐伯 泰
2月12日(金)、「がんを『治す』への挑戦:悪いタンパク質を狙って壊す新戦略」と題して、第5回都医学研都民講座をオンライン方式で開催しました。今回は、東京大学大学院 薬学系研究科 タンパク質分解創薬社会連携講座 特任教授の内藤幹彦先生を講師にお迎えしました。
まず、私から「タンパク質を狙って壊す細胞内のしくみ」と題してお話ししました。細胞の中のタンパク質は、数分から数ヶ月といったように、その寿命は様々で常に入れ替わっています。この入れ替えにおいては、タンパク質を作るばかりではなく、古くなったり、壊れたり、あるいは痛んだりしたタンパク質を見つけ出して分解するシステムが働いています。さらに、タンパク質の新陳代謝が乱れると異常なタンパク質が生じてしまい、アルツハイマー病等の神経変性疾患やがんといった様々な病気を引き起こすことがわかってきました。
続いて、内藤先生から、「がん細胞のタンパク質を壊す薬の開発」と題してお話しいただきました。がん細胞には正常な細胞とは異なるタンパク質が数多くあり、これらのタンパク質の働きにより、細胞を悪性化することがわかっているそうです。このため、がんが増殖するメカニズムの中心となっている悪いタンパク質を狙って治療する新しい薬の開発が進んでいるとのことでした。先生たちが開発しているスナイパーという薬剤は、標的となるタンパク質の分解を誘導する薬剤です。これまでの分子標的薬の場合、時間が経過して濃度が低下すると薬効が低下しますが、スナイパーの場合は、標的となるタンパク質を分解するため、新しく生合成されるまでは悪いタンパク質は機能が回復しないという特徴があるとお話しいただきました。
講演後のアンケートでは「本日の講座をきっかけに癌についてさらに知りたいと言う興味が湧いてきました。」といった御意見を多く頂きました。
佐伯プロジェクトリーダー