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Febrile infection related epilepsy syndrome に対するデキサメサゾン髄腔内注射療法

こどもの脳プロジェクトの佐久間啓プロジェクトリーダーらは「Febrile infection related epilepsy syndromeに対するデキサメサゾン髄腔内注射療法」について Annals of Clinical and Translational Neurology に発表しました。

こどもの脳プロジェクトリーダー佐久間 啓


てんかんとは脳の神経細胞に激しい電気的な乱れ(過剰な放電)が生じることによって、けいれんなどのてんかん発作を引き起こす病気です。その患者数は日本全国で約100万人と推定されています。てんかんの原因は様々で、脳の生まれつきの異常によるもの、脳梗塞などの病気により二次的に起こるもの、原因不明のものなどがあります。

私たちはてんかんの一種であるfebrile infection related epilepsy syndrome(FIRES)(日本語では難治頻回部分発作重積型急性脳炎と呼ばれています)という病気について研究を行なっています。FIRESは大変まれな病気ですが、発症するとてんかん発作を一日何百回も繰り返し、集中治療室での治療が必要となる非常に重い病気です。また回復してもてんかん発作は一生続き、重い脳の障害を残すことが多いおそろしい病気です。

これまでFIRESの原因は不明でしたが、私たちはこの病気では脳の中で強い炎症が起こっていることを初めて明らかにしました。この発見をきっかけに脳の炎症を抑えることでFIRESを治療しようという試みが世界各地で始まり、最近では抗サイトカイン製剤と呼ばれる新しい薬剤が有効かもしれないという証拠が得られ始めています。しかしこれらの薬剤は時に重い副作用を引き起こすため、さらなる治療方法の開発が求められていました。

私たちはFIRESにおける炎症は主に脳の中で生じていることから、炎症を抑える薬剤を脳に直接届けるのが有効ではないかと考えました。そこで大阪市立総合医療センターの九鬼一郎医長、堀野朝子医師らとの共同研究により、他の治療が無効な6人のFIRESの患者さんに対して、デキサメサゾンというステロイド剤を髄腔内* に投与して、その効果を検証しました。これらの患者さんはてんかん発作を抑えるために静脈麻酔薬を用いた強い治療が必要でしたが、デキサメサゾンの投与により全員が静脈麻酔薬から離脱することができました。さらに脳の炎症について調べたところ、炎症性サイトカインという物質は治療により確かに減少していましたが、それでも正常の値よりは高く、デキサメサゾンは炎症性サイトカインを抑える以外の役割も果たしていると推測されました。この治療による重大な副作用の発生はなく比較的安全に使用できることから、FIRESに対する有望な治療法の一つになると考えられます。


* 髄腔内:脳脊髄液という体液が流れている脳周囲のスペースで、背骨の隙間から針を刺すことにより(腰椎穿刺)髄腔内に薬剤を注入することができます。

【参考文献】
Sakuma H, Tanuma N, Kuki I, Takahashi Y, Shiomi M, Hayashi M. Intrathecal overproduction of proinflammatory cytokines and chemokines in febrile infection-related refractory status epilepticus. J Neurol Neurosurg Psychiatry 2015;86:820-2.
doi: 10.1136/jnnp-2014-309388.

図1
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