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インフルエンザウイルスHAを標的とした特殊環状ペプチドの発症阻害機序を解明

感染制御プロジェクト 特別客員研究員小原 道法

インフルエンザの治療で主に用いられているのはノイラミニダーゼ阻害薬ですが、すでに耐性を獲得したウイルス株の出現が報告されています。そのため、既存の抗ウイルス薬とは作用機序が異なる新たな治療薬の開発が急務であり、我々は次世代の抗体医薬として、従来抗体が結合し得ない抗原領域を認識することが可能な特殊環状ペプチドに着目しました。

H5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスのHA蛋白質に対して結合する特殊環状ペプチドのうちで、治療に用いられているZanamivir(リレンザ)と同等以上の阻害活性を示すiHA-100を見出しました。iHA-100はウイルス粒子の感染性を中和するだけでなく、細胞内においてもHAと相互作用し侵入過程の複数の段階を阻害するといった新たな阻害機序が明らかとなりました。また、マウスを用いた治療実験において、感染初期にしか効果の無いリレンザとは異なり感染4日後および6日後の後期においても劇症肺炎抑制による治療効果があることも示されました(図)。この治療効果は、霊長類モデルであるカニクイザルでも同様に示されました。特殊環状ペプチドiHA-100はZanamivirにはない治療効果を示していることから、新たな抗インフルエンザ薬としての可能性を有していると考えられます。さらに、ウイルス表面抗原を標的とする特殊環状ペプチドの有用性と可能性を示しています。

Makoto Saito, Yasushi Itoh, Fumihiko Yasui, Michinori Kohara et. al. Macrocyclic peptides exhibit antiviral effects against influenza virus HA and prevent pneumonia in animal models. Nature Communications, 2021 May 11;12(1):2654. doi: 10.1038/s41467-021-22964-w

特殊環状ペプチドによる治療効果

図. 特殊環状ペプチドによる治療効果

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