Oct. 2021 No.043
こどもの脳プロジェクト 研修生西田 裕哉
抗NMDA受容体脳炎は精神症状などを呈する脳の疾患で、早期診断・治療が重要です。確定診断に必要な自己抗体の検査は時間がかかる場合があるため、症状から治療の開始を判断する診断基準が2016年に提唱されました。これは主に成人の情報を元に作成されたものです。私たちは全国の小児神経専門医と連携して小児の抗NMDA受容体脳炎の臨床情報を集め、診断基準がこどもにも有用かを検証し、次の3点を明らかにしました:(1)抗NMDA受容体脳炎であった場合、8割以上が診断基準を満たし見落としが少ない、(2)基準を満たしても実際に自己抗体が検出されたのは約3割で、これだけでは確定診断できない、(3)診断基準を満たし自己抗体陰性の小児の大半が抗NMDA受容体脳炎でも用いられる免疫調整療法が有効な疾患であり、基準によって治療開始を判断できる。以上から2016年の診断基準はこどもに対しても有用である一方、診断を確定するには自己抗体の検出が必要となると結論しました。
今回の報告から小児においても抗NMDA受容体脳炎の診断基準を根拠に早期・積極的な免疫調整療法を導入することが妥当であることが示され、小児症例の治療成績向上に寄与することが期待されます。