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終末糖化産物(ペントシジン)の蓄積は統合失調症の認知機能の低下と関連する

統合失調症プロジェクト 非常勤研究員小堀 晶子

統合失調症では、幻覚妄想や意欲減退などの症状がよく知られています。その一方、最近では就労などの社会機能と密接に関連する認知機能障害に焦点が当てられています。私たちはこれまで統合失調症患者の血液中の終末糖化産物(Advanced glycation end-products; AGEs)*1の値が健常者と比較して有意に高いことを報告してきましたが1)、AGEsと認知機能障害との関連は知られていませんでした。

そこで、本研究では代表的なAGEsであるペントシジンの血液中の値を測定し、同時に認知機能の評価を行いました。認知機能は年齢、性別、ボディマス指数(BMI)、教育年数、内服している抗精神病薬の量や精神病症状の影響をうけるため、これらの影響を考慮した統計解析を行って、ペントシジンと認知機能の関連を検証しました。その結果、ペントシジンの値が大きいほど、統合失調症における認知機能障害のうち「処理速度」が低下することを見出しました2)(図)。

統合失調症の認知機能障害の中でも「処理速度」の低下は、特に就労に影響します。治療によってAGEsの値を低下させることができれば、就労場面などで良い影響がもたらされる可能性が高まり、リカバリー*2の促進が期待されるかもしれません。

*1終末糖化産物:
タンパク質と糖が反応して産生される物質の総称。代表的なもののひとつとしてペントシジンがある。毒性を持ち、老化や糖尿病等さまざまな疾患との関連が指摘されている。ペントシジンの値は安定して測定することが可能である。
*2リカバリー:
病気や障害を持ちながらも生き生きと自分らしく生活できること。

引用文献

1) Arai M et al., Enhanced carbonyl stress in a subpopulation of schizophrenia. Arch Gen Psychiatry. 2010; 67:589-97.
2) Kobori A & Miyashita M et al., Advanced glycation end products and cognitive impairment in schizophrenia. PLOS ONE. 2021; 16(5):e0251283.

図 統計解析(重回帰分析)の結果

図 統計解析(重回帰分析)の結果

ペントシジンの値は処理速度に影響を与える。
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