開催報告などを掲載しています。
会場:東京都医学総合研究所
公益財団法人東京都医学総合研究所において、第15回 都医学研国際シンポジウムを11月18日に開催しました。担当は、ゲノム動態プロジェクトリーダーの正井久雄副所長です。正井副所長は、がんなどの疾患に関連するゲノム構造の多様性と継承・維持の分子機構の解明を目指す研究を行っています。
今回のシンポジウムは、「ゲノムの継承と安定性維持のメカニズム」と題し、Cold Spring Harbor研究所所長のBruce Stillman博士をはじめ国内外のトップクラスの研究者の参加を得て、活発な討論、意見交換が行われました。
正井副所長から開会の挨拶が行われた後、セッションが始まりました。
第1セッションでは、正井副所長を含め3名の研究者から「ゲノム複製起点とその活性化の時空間制御」についての講演を行いました。その後休憩を挟んで、Bruce Stillman博士が「染色体複製とORC複合体」と題して特別講演を行いました。お昼を挟んで、第2セッションでは「ゲノムの安定維持の制御」について、Ann Donaldson博士を含め3名の研究者から講演を、第3セッションでは「ゲノム複製のメカニズム」について、Anthony Carr博士をはじめ3名の研究者から講演、John Diffley博士から「精製タンパク質による再構成」と題して特別講演を行い、活発な質疑応答が行われるなど内容の充実した議論が展開されました。今回のシンポジウムで発表された内容は、がんなどの疾患の発生メカニズム、そして新しい治療法の開発にも密接に関連しており、研究者、医療関係者に多くの示唆を与えるものでした。
公益財団法人東京都医学総合研究所では、研究者や医療従事者等を対象に最先端の研究領域や社会的注目度の高いトピックをテーマとし、最先端の情報収集を行い研究成果の国際的な発信を目指して国際シンポジウムを今後も毎年開催していく予定です。
写真右:上から、Bruce Stillman博士、John Diffley博士、集合写真
写真下:セッション及び会場の様子
会場:東京学芸大学附属高等学校
11月9日、公益財団法人東京都医学総合研究所は東京学芸大学附属高等学校において「脳のデザイン、病のかたち」と題し、「世界脳週間2016講演会」を開催しました。
「世界脳週間」とは、脳科学の科学的な意義と社会にとっての重要性を一般の方々に理解いただくことを目的として世界的な規模で行われるキャンペーンです。わが国でも「世界脳週間」の意義に賛同し、「脳の世紀実行委員会(現・特定非営利活動法人 脳の世紀推進会議)」が主体となって、高校生を主な対象とした講演会などが各地で行なわれています。
医学研が開催した今回の講演会は、内原俊記研究員の「脳疾患の“すがた”を顕微鏡でとらえる」と楯林義孝研究員の「こころの病の“かたち”をどうとらえたらいいのか?」の2本を講演しました。
内原研究員は、ヒトの脳の発達から話を始めて、写真やイラストを使用して樹状突起やシナプスの構造と機能について分かり易く解説しました。その上で、脳の高次な機能を“複雑ないい加減さ”と定義してヒトの現実世界の変化への対応を表現しているとのことです。また、脳において病変の起こる場所と順序は疾患によって異なることや、発症する脳の部位によって認知症の種類が異なることなどを、切片図などを使って目に見える形で解説し、神経突起には早期から病変がみられることが分かってきたといった話を披露しました。
次に、楯林研究員は、組織切片を顕微鏡で調べ始めた時代は日々新たな発見が得られたが、近年は分子生物学や遺伝子操作技術等の進展により、脳のミクロレベルでの解析などが飛躍的に進んだとのお話でした。ただし、これらの解析で明らかになるメカニズムによってもヒトの高次脳機能の解明には至りません。高次脳機能を解明するためには、まだまだ研究を重ねていく必要があるとのことです。そうした研究の模索として、アメリカでは脳のかたちをより詳細に解りやすく「見える化」する新しいプロジェクトが始まっています。MRIなどの「見える化」により、こころの病のかたちがより詳細に理解され、より効果的な予防・治療法の開発が可能になるのではと期待されているとのご説明がありました。
高校生たちは、神経が集積した脳の活動と高次脳機能など、脳の持つ複雑なメカニズムに興味深く耳を傾け、講演終了後も質問が絶えず熱心な講演会となりました。
写真右:上から内原研究員、楯林研究員
写真下:講演の様子
会場:一橋講堂
10月20日、公益財団法人東京都医学総合研究所は一橋講堂において「うつと認知症―健康長寿社会の実現に向けてー」と題し、九州大学大学院医学研究院精神病態医学分野 神庭重信 教授を講師にお迎えして、第5回都民講座を開催しました。
今回の講演では、最初に当研究所の楯林研究員が、ストレスとうつ・認知症について講演を行いました。疫学調査によれば、うつ病の既往は認知症の発症を2倍程度増やすとのことです。うつ病の発症にはストレスが大きく関わっており、ストレスが神経回路の障害を起こし、その結果うつ病が発症するとのことです。認知症は、記憶、思考、理解、さらに言語などに関連する多数の高次脳機能の障害を伴う症候群で、異常行動や、うつ、幻覚などの行動、心理的な症状を伴います。認知症のうち5割~7割をアルツハイマーが占め、その最大の要因は老化であり、75歳から発症の割合は急速に増えます。血液検査でストレス状態を同定し、抗炎症薬を短期間服用してストレスダメージを軽減し、うつ、認知症の予防につなげることを目指して研究を行っていくとのお話でした。
次に、神庭先生が高齢者の心の健康と対策について講演を行いました。認知症は認知機能が何らかの原因により低下したため、日常生活や社会生活に支障をきたしている状態です。物忘れや日常生活動作の障害、精神及び行動の障害が認められます。これらの症状は脳神経細胞の損傷によって起こり、その症状によって脳の損傷部位は異なります。認知症の約85%はアルツハイマー病か脳卒中等の血管性認知症が原因です。血管性認知症は糖尿病や喫煙、飲酒などにより血管がつまったり、破れたりして起こります。アルツハイマー病は、主に側頭葉と頭頂葉が障害されることにより起こります。いかに発症する前に予防できるかが重要で、日々の生活習慣が認知症につながるとのお話でした。高血圧や糖尿病、喫煙などの危険因子を抑えて、和食と牛乳やヨーグルトを食べること、運動を習慣づけることで認知症のリスクが減少するとのご説明でした。
講演終了後の質疑応答も時間一杯まで途切れることがなく充実した講演会となりました。
写真右:上から楯林研究員、神庭先生、講演の様子
写真下:控え室にて
会場:一橋講堂
9月15日、公益財団法人東京都医学総合研究所は一橋講堂において、「高齢者のてんかんと認知症」と題し、第4回都医学研都民講座を開催しました。外部講師には、新宿神経クリニック院長の渡辺雅子先生と横浜市総合保健医療センター地域精神保健部長の塩崎一昌先生をお迎えしました。
今回の講演ではまず、司会のシナプス可塑性プロジェクトリーダー山形研究員が医学研での研究内容についてスライドを用いて概説しました。
次に、当研究所の島田研究員が講演を行いました。こどもに多いてんかん発作は、「けいれん」や「ひきつけ」のイメージがありますが、高齢者の場合は、口をもぐもぐ動かす、ぼんやりする等の症状がてんかん発作にあたります。これは高齢者の成熟した脳では側頭葉など限られた脳の発作のため症状が緩やかになるとのことでした。また、このような高齢者のてんかんの多くで見られる症状は、認知症とも重複するため、一見すると認知症のように見えるとのことです。わかり易く身近な説明に聴講者の方々は熱心に聞き入っていました。
次に、渡辺先生からは、臨床医の視点から高齢者のてんかんの原因は血管障害や認知症などが50%を占めるとお話がありました。実際の症例を元にした解説や高齢者のてんかん発作を動画で示され、高齢者のてんかんは薬で止まる率が高く、再発も少ないため脳計測も含めた診断をきちんと行って治療に結び付けることの重要性を示されていました。また、100人に1人の割合で誰でも罹る可能性があり、家族が正しく理解し、見守ることが重要とのお話でした。
最後に、塩崎先生からお話しがありました。横浜市総合保健医療センターの物忘れ外来では、年900件の物忘れの鑑別診断を行っています。受診した高齢者の約20人に1人は脳波上てんかん性放電が見られ、ほぼ側頭部に現れるとのことです。高齢で発症したてんかんは、発症年齢と発作のタイプに応じて投薬量を調節して治療することが必要であること、具体的に推奨できる薬、抗てんかん薬の治療効果について、専門家としてわかり易く話され、聴講者は熱心にメモを取っていました。
写真右:上から山形研究員、島田研究員、渡辺先生、塩崎先生、講演会の様子
写真下:講演前のひと時
会場:東京都医学総合研究所
8月19日(金)、(公財)東京都医学総合研究所の講堂において、「サイエンスカフェin上北沢 タンパク質から始めよう身近なサイエンス」を開催いたしました。サイエンスカフェは、音楽を聴きお茶を楽しみながら、人間のからだのサイエンスを研究者と自由に語り合う場です。
第22回目となるサイエンスカフェ、今回は夏休み親子企画と銘打ち、からだにとって不可欠な「タンパク質」の働きについて当研究所のカルパイン※1プロジェクトの小野研究員がスライドを使って分かり易く話しました。
タンパク質の成分や形などについて、模型の映像を見せるなど、分かり易いお話に、参加した子供さんたちは、目を輝かせて聞き入っていました。
次に、ピアノ、バイオリン、トロンボーン、サックスの研究員による本格的な演奏が行われ、その迫力は会場内を旋律で満たしました。
休憩を挟んだ第2部は参加者が実験を体験するコーナーです。1つ目はアミノ酸を見つける化学反応の実験、2つ目は果物が持つプロテアーゼ※2の働きを調べる実験です。子どもさんたちは実験用手袋をしてピペットを操り、器用に普段できない実験を楽しんでいました。
工夫をこらした内容に、参加者からは「普段体験できないことができて楽しかった。」「サイエンスという世界ですが、親しみのもてる会だった。」「音楽も楽しませていただいてリラックスできた。」といった声が多数寄せられました。
都民の皆さんの研究所として、今後ともこうした催し物を実施していきます。
※1 カルパイン:他のタンパク質を切断することにより細胞や生体をより良い状態に調節する酵素
※2 プロテアーゼ:タンパク質中のペプチド結合を切断する酵素
写真右:お話をする小野研究員
写真下:ピペット操作の実験に真剣な子どもたち、 研究員による演奏