宮下知之研究員

平成30年11月19日(月曜日)

世界脳週間講演会を開催しました

会場:東京学芸大学附属高等学校

11月19日(月)、当研究所では、東京学芸大学附属高等学校において、「記憶を作る遺伝子の働き」と題し、「世界脳週間2018講演会」を開催しました。

「世界脳週間」とは、脳科学の科学的な意義と社会にとっての重要性を一般の方々にご理解いただくことを目的として世界的な規模で行われるキャンペーンです。わが国でも「世界脳週間」の意義に賛同し、「特定非営利活動法人 脳の世紀推進会議」が主体となって、高校生を主な対象とした講演会等が各地で行なわれています。

当研究所が開催した今回の講演会では、学習記憶プロジェクトの宮下知之研究員がお話ししました。記憶についての研究は、100年ほど前に心理学者のヘルマン・エピングハウスが、人がどのくらいの時間にわたって記憶を維持できるのかを調べ、忘却曲線を作り上げたことが有名です。さらにエピングハウスは、トレーニングのやり方、例えば、間隔をあけるかどうかによって、どのように忘却曲線が変化するのか、つまり、どのように記憶の獲得や維持が強化されるのかについて示しました。しかしながら、その時代は脳の中でどのような変化が起こっているのか、その仕組みは不明でした。近年、神経科学の研究は、人を含めた多くの動物を使い、脳の機能を遺伝子レベル、そして、物質レベルで明らかにしようとしています。宮下研究員は、モデル動物としてショウジョウバエを使い、匂いを使った学習効果について調べ、また、変異体のショウジョウバエを使って、遺伝子と行動を結びつけ、分子レベルで説明するための研究をしていることをお話ししました。

今回の講演会は、東京学芸大学附属高等学校において生物を選択している高校生が対象だったため、難しい話であるにもかかわらず、ちょうど授業で勉強した後だったこともあり、みなさん熱心に聴講していました。


写真右:宮下知之研究員

写真下:講演の様子

講演の様子
原孝彦プロジェクトリーダー
小澤敬也先生
会場

平成30年10月25日(木曜日)

平成30年度第5回都医学研都民講座を開催しました

会場:一橋講堂

10月25日(木)、当研究所では、一橋講堂において、「白血病治療法の最前線」と題して、第5回都医学研都民講座を開催しました。今回は、自治医科大学名誉教授小澤敬也先生を講師にお迎えしました。

まず、当研究所幹細胞プロジェクトの原孝彦プロジェクトリーダーから、「悪性Tリンパ腫に対する新しい薬の開発を目指して」と題してお話しいただきました。白血病は、「急性」と「慢性」、さらに、がん化する細胞の種類により「骨髄球系」と「リンパ球系」に大きく分けられます。このうち、「急性」で「リンパ球系」である急性Tリンパ芽球性白血病(T-ALL)は、難治性の白血病で、治療薬は開発されていません。しかし、原研究員は、このT-ALL細胞を選択的に死滅させる天然化合物を発見し、さらに、この化合物と同様の効果を持つ化合物の合成に成功したそうです。現在は、さらに多くのT-ALL患者の検体を使っての有効性の検証を進めるなど、創薬に向けて研究していくことをお話ししました。

続いて、小澤先生から、「発展を続ける白血病治療法の歴史と未来」と題してお話しいただきました。白血病の治療は、抗癌剤による化学療法から、最近では、分子標的治療薬が開発されることで、急性前骨髄球性白血病や慢性骨髄性白血病の治療成績が劇的に改善しました。また、治癒を目指した造血幹細胞移植も一般的となっています。さらに、最近のトピックスとしては、急性Bリンパ性白血病では、8割以上の患者さんに治療効果があったと報告されているCAR-T細胞療法と呼ばれる遺伝子治療が注目されています。先生からは、白血病やその治療法の歴史について触れていただくとともに、ご自身が研究されているCAR-T細胞療法についてお話しいただきました。この療法は、患者さんから取り出した免疫細胞(T細胞)にがんに結合する受容体遺伝子を組み込んだうえで、体内に戻すものであるとご説明いただきました。

講演後のアンケートでは、「最新のCAR-T細胞療法について、わかりやすく説明してもらってよかった。今後に希望が持てる治療法だと感じた。」といった御意見を多く頂きました。


写真右:上から原研究員、小澤敬也先生、会場の様子

写真下:控え室にて(右:小澤先生)

講義(神経難病の口腔ケア最前線:実演も含めて)
グループワーク
呼吸リハビリテーション演習

平成30年10月11日、15日、16日、25日、26日

平成30年度 東京都在宅難病患者訪問看護師等養成研修(座学研修Ⅱ)を開催しました

会場:東京都医学総合研究所 講堂 他

平成30年10月中に、計5日間の日程で「東京都在宅難病患者訪問看護師等養成研修」を開催し、東京都内から95名の訪問看護師等が参加しました。

平成27年「難病の患者に対する医療等に関する法律」が施行され、難病患者を取り巻く状況は大きく変化しています。こうした状況のなかで、難病患者を地域で支える訪問看護師等が難病の理解を深める機会は重要です。

研修では、多様で複雑なニーズをもつ難病患者の理解に加えて、専門性の高い症状マネジメント、療養経過を通したケースマネジメントの視点を確認すべく、各分野の著明な講師陣による講演が行われました。プログラムは、医療・介護ニーズが高い神経難病の疾病を中心とした理解、難病患者に関連する複雑な制度の理解、遺伝性疾患の看護など、最新の医療に関する情報も含めたものでした。また、難病看護のハードルを高くしている所以とも思われる、コミュニケーション障害、在宅人工呼吸管理、服薬管理、嚥下障害、排泄障害等に対する難病特有のアプローチについて、学びを深めました。

これらの知識を統合して、実践に持ちかえってもらうために、事例検討や人工呼吸管理演習、呼吸リハビリテーション演習を行いました。普段の実践のなかで孤軍奮闘している訪問看護師の皆様は、積極的な情報交換・交流をはかる様子がみられました。

充実した研修を終え、「来年の研修には、同僚に参加を勧めます」といってくださる方も多く、これからも研修を通じて実践に役に立つ情報を発信していきます。


写真右:上から、講義(神経難病の口腔ケア最前線:実演も含めて)、グループワーク、呼吸リハビリテーション演習

写真下:講義(コミュニケーション障害の支援・透明文字盤の使い方)

講義(コミュニケーション障害の支援・透明文字盤の使い方)
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平成30年9月30日(日曜日)

平成30年度第4回都医学研都民講座を開催しました

会場:日経ホール

9月30日(日)、当研究所では、日経ホールにおいて、「難病・ALSを「治す」への挑戦」と題して、第4回都医学研都民講座を開催しました。今回は、一般社団法人せりか基金代表理事黒川久里子先生を講師にお迎えしました。

まず、黒川先生から、「『宇宙兄弟』がつなぐ難病・ALS※治療への挑戦 -せりか基金の取り組み-」と題してお話しいただきました。先生が代表理事を務めているせりか基金は、漫画「宇宙兄弟」の登場人物の一人であり、ALSの研究を行う伊東せりかにちなんで設立したものです。そして、主な活動は、ALSの治療法の研究開発費を集め、せりか基金賞として、研究者に研究開発費を助成する活動をしていると、お話しいただきました。

続いて、当研究所認知症プロジェクトの長谷川成人プロジェクトリーダーから、「原因究明の果てない道のり」と題してお話しました。長谷川研究員は、若年性認知症である前頭側頭型認知症に蓄積するTDP-43を2006年に発見し、さらに、これがALSの発症と進行の原因物質であることも発見しました。現在、TDP-43が、なぜ脳に蓄積し、ALSを発症するのか、そして、防ぐ方法はないのかなどの研究を行っていることをお話ししました。また、TDP-43の構造は今後、数年のうちに明らかになり、それにより、研究が進展していくのではないかといったお話しもありました。

演者二人による講演の後、NPO法人さくら会の川口氏にもご登壇いただき、司会の当研究所難病ケア看護プロジェクトの中山優季プロジェクトリーダーも交え、総合討議を行いました。その中では、ALSの特徴として、病状が進むと患者の性格が厳しくなることが多いが、研究が進展することで、少しでも生きていく力を与えることができればよいといったお話しがありました。

台風の接近により、開催が危ぶまれる中での開催でしたが、アンケートでは、「治療薬の開発に向けた最新の動向を聞くことができてよかった。」といった御意見を多く頂きました。

※ALS:筋萎縮性側索硬化症のことで、神経変性疾患の一つであり、TDP-43というタンパク質が異常に蓄積することで発症する。主な症状として、神経系が徐々に壊れ、筋肉に神経の命令が伝わらなくなることで、動かすことが次第に困難になっていく。現在、原因不明で根本治療薬が存在しない難病である。


写真右:上から黒川先生、長谷川研究員、川口氏、中山研究員

写真下:総合討議(左から川口氏、黒川先生、長谷川研究員)

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平成30年8月19日(日曜日)

サイエンスカフェin上北沢
「脳の中をのぞいてみよう!-私たちを守ってくれる白血球を見てみよう!-」を開催しました

会場:東京都医学総合研究所

8月19日(日曜日)、当研究所の講堂において、脳卒中ルネサンスプロジェクトの七田崇プロジェクトリーダーを話題提供者として、「サイエンスカフェin上北沢『脳の中をのぞいてみよう!-私たちを守ってくれる白血球を見てみよう!-』」を開催しました。今回御参加いただいた30名の方は、脳や白血球の働きについて学んだり、脳の細胞や白血球等を観察したりするとともに、研究者と自由に語り合いました。

七田プロジェクトリーダーが脳や白血球の働きについて説明した後、参加者のみなさんに4つのコーナーを体験していただきました。一つ目は、自らマウスの血液をスライドガラスに塗って、白血球を実体顕微鏡で観察しました。二つ目は、特殊な薬品によって透明化したマウスの脳に、神経細胞に赤く光る色を付けて、蛍光顕微鏡で観察しました。三つ目は、脳梗塞を起こしたマウスの脳では、神経細胞やグリア細胞の内のアストロサイト(注)がどんな風に見えるのか、蛍光顕微鏡で観察しました。四つ目は、目で見たことが、実際の物とは違って見える錯視について、自ら工作し、体験しました。

参加者は小学生から大人まで様々でしたが、参加したみなさんからは、顕微鏡を使ったマウスの血液の観察や、透明化したマウスの脳を見ることができて、楽しかったといった御意見を数多く頂きました。

(注)アストロサイト:シナプスや神経細胞の表面を被い、神経細胞の伝達機能や代謝・栄養面を支えているもので、グリア細胞のうちのひとつ。


写真右:上から観察用スライドガラス作成、白血球の観察、蛍光顕微鏡による観察、錯視作成等)

写真下:七田プロジェクトリーダーによるお話

写真 七田プロジェクトリーダーによるお話
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