大井玄先生
内原研究員

平成29年7月27日

平成29年度第3回都医学研都民講座を開催しました。

会場:一橋講堂

7月27日(木)、一橋講堂において、「ものわすれ、脳とこころの楽屋裏」 と題して、第3回都医学研都民講座を開催しました。

今回は、東京大学名誉教授の大井 玄 先生を講師にお迎えしました。

前半は、当研究所脳病理形態研究室室長の内原 俊記 研究員から、「暮れなずむ脳の内景~顕微鏡でみる加齢とアルツハイマー病~」 というテーマでお話ししました。生前にアルツハイマー型認知症と診断された方の脳を亡くなった後に検査すると、生前の診断が正しかったケースは、60~70%程度であり、3分の1程度は正しく診断できていませんでした。これは世界的にも同じような割合となっています。なぜ、このような数値にとどまるのかというと、例えば、がんの場合は、病変を取り出して検査することで診断できますが、認知症の場合は、脳から取ってくることができず、症状から診断することしかできないためとのことです。このため、剖検を通じて、臨床診断精度の向上を図っているとのことでした。

後半は、大井先生から、「老耄(ろうもう)の意味を考える~自然の配慮という視点~」 というテーマでお話しいただきました。大井先生は、以前、松沢病院に勤務していた際、認知症高齢者はだんだん症状が重くなってくると、自分という感覚が鈍くなってくることに気付いたそうです。このため、自我意識が薄れてくることで、痛みも感じにくくなってくるのではないかと考え、松沢病院のがん患者について過去の記録を調べたそうです。この結果、認知症の人のがんが発見されるきっかけは、痛みにより自ら医療機関に受診したためではなく、突然の出血や検診が多いこと、また、入院しても痛みを訴えることは少ないこと、そして、薬の必要量も少ないことが分かったそうです。さらに、生物の一生の必然の過程は、加齢であり、これに伴い老化は進み、種々の精神・身体症状が現れるのは自然であり、認知能力が落ちるのは自然なことであるそうです。

今回の講演のテーマは認知症であり、また、多くの著書を上梓されている大井先生に御講演いただいたことから、多くの方からお申し込みいただきました。アンケートでは、聴講者のみなさんから、「認知症に対する見方が変わり、参考になった。」という御意見を多く頂きました。

次回は、9月21日(木)に一橋講堂において、「知っておけば大丈夫-インフルエンザの基礎知識と対応策」と題して行います。


写真右:上から、大井先生、内原研究員

写真下:控室での様子、講演会場

大井玄 先生、内原研究員



平成29年6月15日

平成29年度第2回都医学研都民講座を開催しました。

会場:一橋講堂

第2回都民講座は、6月15日(木)、一橋講堂において、「遺伝病の発症と症状を予測する」と題して開催しました。

今回は、国立病院機構東京医療センター 臨床研究センター 聴覚・平衡覚研究部部長の松永 達雄 先生を講師にお迎えし、当研究所の哺乳類遺伝プロジェクトリーダーの吉川 欣亮 研究員とともに講演しました。

講演の前半は、松永先生より、「遺伝子検査で遺伝性難聴の発症を予測して備える」というテーマでお話いただきました。遺伝子検査では、生まれた子どもが難聴であった場合、その次の子どもも難聴となる可能性やその症状をある程度は予測でき、また、小児期や成人後の難聴でも、今後の症状や難聴以外の症状の発生可能性をある程度は予測でき、これらの症状が重くなるのを最小限に食い止めることができるとのことでした。

後半は、吉川研究員より、「モデル動物が遺伝病発症と病態を予測する」というテーマでお話いただきました。遺伝子に異常を持つ、あるいは、遺伝子を破壊した疾患モデル動物が、人間の病気の発症メカニズムや治療法の解明のため、重要な役割を担っており、また、このモデル動物の作製が、近年のゲノム編集技術により、短期間で可能となったとのことでした。

今回の講演のテーマは遺伝病ということで、あまりなじみのないテーマではありましたが、アンケートからは、聴講者のみなさんにとって初めて聞く内容が多く、参考になったというご意見を多くいただきました。


写真右:上から、松永先生、吉川研究員、講演会場

写真下:松永先生と一緒に




平成29年4月26日

平成29年度第1回都医学研都民講座を開催しました。

会場:東京都医学総合研究所 講堂

第1回都民講座は、4月26日(水)、当研究所において、順天堂大学大学院 認知症診断・予防・治療学講座 先任准教授 本井ゆみ子 先生を講師にお迎えし、 「認知症-予防も備えもしましょう-」 と題して開催しました。

今回の講演では、前半は、認知症は加齢とともに発症の割合が増加し、85歳以上になると30%もの方が症状を呈すること、日本では2020年に患者が600万人にまで増加すると推計されていることの他に、認知症の前段階である軽度認知機能障害の段階では、進行を予防することで、回復が可能であることなどをお話いただきました。

後半は、認知症にならないための予防や備えとして、適度な運動、バランスのとれた食事、控えめな飲酒、禁煙、ストレスをためないことなどの生活習慣が大事であり、さらに興味と好奇心と生きがいを持ち続けることが大切であることなどをお話しいただき、聴講者のみなさんは熱心に聴き入っていました。

講演終了後、希望者を対象に、6グループに分かれ、研究室を見学していただき、 「普段見ることのできない研究室が見学できてよかった。」 等、とても満足していただきました。


写真右:上から、本井ゆみ子先生、長谷川研究員(認知症プロジェクトリーダー)、見学の様子

写真下:講演会場





平成29年4月22日、4月23日

科学技術週間特別行事に参加しました。

会場:日本科学未来館

4月22日(土)、23日(日)の2日間、「脳のはたらきと遺伝子DNA」 と題し、日本科学未来館において、実験教室等を行いました。この行事は、「Tokyo ふしぎ祭 (サイ) エンス」 をキャッチフレーズに、首都大学東京、各研究・教育機関等が一堂に会して研究・技術についてわかりやすく紹介するものです。

当研究所からは、「見てみよう」、「調べてみよう」、「作ってみよう」 という3つのテーマで、来場者に直接実験等に参加していただく 「体験展示」 を実施しました。

「チャレンジ!DNAを取り出してみよう」 では、バナナからDNAを取り出す実験を行いました。参加者は研究員の説明に真剣に耳を傾け、途中、研究員の手助けも受けながら、実験用ゴム手袋を付けた慣れない手つきで実験をやり遂げました。結果、DNAが取り出せると、白衣に身を包んだ小学生等からは満面の笑みがこぼれ、驚きの声が響きました。

「脳って何? 何しているの?」 では、各参加者がモニター上に現れたマークの動きに従って、腕を動かすことで脳のはたらきを体験するものです。このマークの動きは一様ではなく、動きが早くなったりするのに合わせて、腕を素早く動かす必要があります。これにより、どの程度、素早く反応できるのかを見るもので、この反応の程度が得点化されるため、みなさん集中して取り組んでいました。

「遺伝子ってなぁに?」 では、DNAが体の設計図であることや、人体にある60兆個の細胞の一つひとつに、約2mのDNAが入っていること等を学んだ後、DNAの形を模したビーズストラップ作りに挑戦しました。集中して親子で協力し、熱心に作業している姿が印象的でした。

担当した研究者にとって、普段は接することの少ない都民の皆様に研究内容を披露する貴重な機会となり、当研究所にとって有意義なイベントとなりました。


写真右:上2枚:DNAを取り出してみよう、真剣に実験に取り組む子供たち、 下2枚:脳のはたらきを体験する可愛い参加者の様子

写真下:遺伝子ってなぁに?、 ビーズストラップ作り




平成29年3月5日

サイエンスカフェin上北沢 「目の病気になったらどうなる?どう見える?」 を開催しました。

会場:東京都医学総合研究所 講堂

3月5日(日)、(公財)東京都医学総合研究所の講堂において、「サイエンスカフェin上北沢 目の病気になったらどうなる?どう見える?」を開催しました。今回のサイエンスカフェは、32名の方が集い和やかな雰囲気の中で科学のトピックを体験し、研究者と自由に語り合いました。

本年度3回目のサイエンスカフェは、「目の病気になったらどうなる?どう見える?」がテーマです。ドライアイは涙の量が不足したり、涙の質のバランスが崩れ、涙が均等に行き渡らなくなり目の表面に傷が生じる病気です。目が疲れやすい、目が乾く、かすんで見えるなどの症状を伴います。実際に当研究所スタッフにドライアイの検査を行い、聴講者にその様子を見ていただきました。エアコンの風量が強すぎたり、パソコンやゲームのやりすぎがドライアイをもたらすリスクを増やすとのことでした。

アレルギー性結膜炎については、アレルギーの定義や、原因物質などの説明後に、簡易キットを使ってアレルギー検査を行いました。

次に、加齢による目の病気として、白内障と緑内障のご説明が披露されました。白内障は、水晶体が混濁し、透明性が失われる病気です。初期の症状としては、かすんで見える、二重、三重に見えることなどがあります。点眼薬は進行を遅らせるためのもので、根本的な治療法は手術となります。聴講者には「白内障メガネ」をかけてもらい、白内障を疑似体験してもらいました。次に、緑内障についてですが、緑内障は日本における失明原因のトップで、4分の1を占めています。眼圧上昇により視神経が障害され、見える視野が欠けてきますが、少しずつ進行するので自覚が難しい疾病です。聴講者には緑内障の見え方も体験してもらいましたが、この視野の障害は治らないので、早期発見・早期治療が非常に重要とのことでした。また、日本では実に緑内障患者の約7割が正常な眼圧で緑内障を発症しており、この治療研究が急務となっています。当研究所では、世界で初めて正常眼圧緑内障モデル動物の開発に成功し、更にその動物を使って視神経再生にも成功し、治療研究を推進しているとの講演でした。

終了後も熱心な聴講者から質問が絶えず、充実した講演会となりました。


写真右:上から原田高幸研究員、眼球の説明をするスタッフ、視覚障害者の誘導法等

写真下:講演の様子

ページの先頭へ