会場:東京都医学総合研究所
8月1日(水)、2日(木)の2日間、東京都の協力の下、当研究所において、「高校生のための都医学研フォーラム」を開催しました。
このフォーラムは、医学・生物学研究に興味を持つ高校生に、当研究所の研究成果を分かりやすく伝え、研究室等での実験や機器操作を実際に体験してもらうことにより、研究への理解を深め、将来的には進路選択の一助となることを目的としています。今回は、18校から41名が参加しました。
前半の講演は、再生医療プロジェクトの宮岡 佑一郎 プロジェクトリーダーから「これから生命科学研究者を目指す(かもしれない)高校生への1つの指針」というテーマで、自身の経験を踏まえ、どのようにして研究者になったか、また、研究者の日常生活等、研究者という職業の魅力について、お話ししました。
後半の研究室見学は、参加者が希望するコースに基づき、分子医療プロジェクトと統合失調症プロジェクト、感染制御プロジェクトとシナプス可塑性プロジェクト、依存性薬物プロジェクトと難病ケア看護プロジェクト、うつ病プロジェクトと細胞膜研究室の4コースに分かれ、見学しました。見学先では、研究内容紹介の他、インフルエンザウイルス検査の体験や蛍光顕微鏡によるシナプスの観察等を行いました。
参加者のアンケートでは、講演内容から将来研究者になった場合のイメージが湧いた、といった意見や、研究室見学の際には、研究内容についていくつもの質問が出され、大変活発な質疑応答が交わされました。
写真右:研究室見学(インフルエンザ検査体験、シナプスの観察等)
写真下:宮岡研究員による講演
会場:東京都医学総合研究所
神経病理ハンズオンは、名称こそ違うものの、旧研究所(神経研)の時代から数えると、今年で44回目(連続)になります。その間、神経変性疾患についての病態理解が蛋白レベルで解明されたり、また、昔はなかった新しい疾病が生じてきたり(特に中毒など)、神経疾患の疾病構造も時代の変遷とともに変化してきました。標本の染色法も新規のものが加わり、また、正しい診断に導くためには、検体の固定法や染色法のクウォリティーコントロールが前提であり、それらについては、初日に関絵里香(神経病理解析室、以下敬称略)が詳細なレクチャーを担当しました(写真右上)。
実習形式も、顕微鏡のみでも供覧の時代を経て、数年前からはデジタルパソロジーも導入するなど、今日的な姿に変貌してきており、小島利香(神経病理解析室)がデジタルパソロジーについて発表しました。また、脳神経病理データベース内に受講者用のデジタル学習ルームも作成して学習効果の向上をはかりました(マルチモニター環境設営も含め、植木信子、八木朋子が担当しました)。
しかし、世の中デジタルの時代とは言え、実際に顕微鏡で標本を観察するトレーニングは必須であり、今回は受講者15名と一緒にディスカッション顕微鏡を囲みながら(写真右下)、所見のひとつひとつを解説するセッションも挿入しました。若干密集していますが、それなりに壮観です。
対象疾患はほぼ全てのカテゴリーに渡り、92疾患(184症例、約1,000枚の標本)を4日間(実質的には3日間)で供覧するハードな内容です。頭部外傷については、外部講師の原田一樹先生(防衛医科大学法医学准教授)にレクチャーをしていただきました(写真下)。
受講者は神経内科、精神科、病理、法医学、神経科学から、また、職層としては、研修医から教授まで、幅広い人材が参加されました。神経病理に関しては初学者が多かったですが、それぞれの専門性との神経病理の出会い(質疑応答)が、スタッフの刺激にもなりました。受講者の皆様の今後のキャリアアップに少しでもお役に立てれば嬉しく思います。
神経病理解析室 新井信隆
会場:東京都医学総合研究所
夏のセミナーを開催しました。脳の働きを明らかにするために、特定の遺伝子を減らしたり増やしたりする必要があり、その場合遺伝子導入法は有用です。また、蛍光タンパクを導入して神経細胞の動きや形を解析する、あるいは光や薬に応答する蛋白を導入して神経細胞の活動を人為的に制御するにも遺伝子導入が必要です。特にアデノ随伴ウイルスは安全性が高いため、遺伝子治療にも使われます。
例年の神経系への遺伝子導入法実習に加え、今回は神経系の機能解析法も合わせて行いました。遺伝子導入法として、アデノ随伴ウイルス作製法、脳へのウイルス(トレーサーで代用)微量注入法、子宮内エレクトロポレーション法、脳の初代神経培養法、そして、機能解析法として、スライスパッチクランプ法と脳波測定です。例えば、ある蛋白が海馬の長期増強の原因であるという仮説を証明するために、その発現を抑制する核酸を緑色蛍光タンパク(GFP)とともに発現するアデノ随伴ウイルスを脳の海馬部分に注入し、スライスを作成し、GFPを頼りにその蛋白を人為的に発現抑制したニューロンを同定し、パッチクランプ法により長期増強が抑制されているか否かを調べるという実験が可能となります。
参加者は、大学の研究者、大学の技術者2名、大学院生の4名です。こちらは、岡戸、平井、田中、高沢、三輪(国立精神・神経医療研究センター)で対応しました。ウイルス、細胞から個体レベルまで、やや盛りだくさんですが、充実した内容と思います。皆さん熱心に取り組んでいただきました。私にとっては、各々の研究内容や研究環境の話しなど、有意義な楽しい一週間でした。受講生の皆様に少しでも役立つことを願っています。
神経細胞分化プロジェクト プロジェクトリーダー 岡戸晴生
写真:実習の様子
会場:東京都医学総合研究所 他
このたびの、西日本豪雨災害にてお亡くなりになられたみなさまのご冥福をお祈りいたしますとともに、被災されたみなさまには、心よりお見舞い申し上げます。
また支援に従事する自治体保健師のみなさまには、心より御礼申し上げます。
H27年1月に、「難病の患者に対する医療等に関する法律(通称「難病法」)が施行され、今年で4年目となります。この間、国としての施策の具体化、そして各都道府県等における施策・制度・しくみづくりが急ピッチですすめられてきましたが、目下それらの取組は進行中といっても過言ではありません。そのようななか、各都道府県および保健所を設置する市や特別区の保健師のみなさんが、夏のセミナーに参加されました。
保健師のみなさんは、難病患者のみなさんが療養や生活において直面する課題を、地域で活動する行政の医療職として把握し、対策を考え、まさに都道府県等における難病の施策・制度・しくみをつくる、大変重要な役割を担っています。
プログラムは、国や都道府県における難病施策、各地域における難病保健活動に関する実践報告、難病保健活動に必要な知識や技術の習得に関する講義や演習で構成しました。実践報告では、地区活動を通じて把握された課題と、課題を解決するための「難病対策地域協議会」の実施報告もしていただきました。また「難病患者さんの災害時対策」の取組についても共有し、当プロジェクト所蔵の、人工呼吸器使用者の災害時対策にかかる資料や機器・器材(携帯型発電機、足踏み式吸引器、停電時の人工呼吸実施に必要な蘇生バック等)もフルに活躍しました。
演習では北海道から沖縄までの、全国から集まったみなさんが、日頃の活動資料を持ち寄り、活動の方向性を討議し、また同時にたくさんのことを語らい、自治体のわくを超えた保健活動のネットワークもつくられました。
セミナー後のアンケートでは、「今後の活動に役立つ」、「今後やってみたいことができた」との回答で、受講生のニーズに即したセミナーであったことが評価されました。「難病患者のみなさんの療養環境整備・地域ケアシステムに資する研究」は、プロジェクトにおける研究課題のひとつであり、この研究成果の普及交流を目的とする夏のセミナー継続の必要性をあらためて痛感しました。
「難病になっても、尊厳をもって、安心して住み慣れた地域で暮らし続けることができることをめざす」これは「難病法」の理念です。
夏セミ御参加のみなさまと私たちのネットワークも継続・強化し、 難病をもつみなさんに安心して生活していただけるケアシステムの実現をめざして、今後も活動していきまたいと思います。
最後になりましたが、多くの外部講師等の先生方にご指導、ご協力をいただき、セミナーを無事終えることができました。心より御礼申し上げます。
※受講生:65名(他 6月12日公開プログラムの参加者:計130名)
難病ケア看護プロジェクト
写真右:上から、中山優季プロジェクトリーダー、川村佐和子氏、ディスカッションの様子
写真下:講演会場