HOME広報活動刊行物 > January 2015 No.016

開催報告

第4回 都医学研シンポジウム
「家族と当事者からみた精神科医療・精神医学」

主催:統合失調症・うつ病プロジェクト リーダー糸川 昌成

子供のころ、目覚まし時計やラジオを分解するのが好きでした。精巧に組まれた真空管の曲線に見とれながら、遠く離れたスタジオからアナウンサーの声が届くカラクリにほれぼれとしたものです。

だから、医学部で眼の解剖を学んだ時は、進化の過程で到達した光学機器でもかなわない精密な構造に感動しました。やがて、医者になると、臨床のかたわらで分子生物学というミクロの研究に没頭するようになります。心が脳に宿るとするならば、精神の病気は脳を解明すればわかるはずだ。かつて肺病と恐れられ偏見に苦しめられた結核も、結核菌が発見され、ストレプトマイシンで治療できるようになったら差別がなくなったではないか。つまり、脳の原因が分かれば、統合失調症も偏見がなくなると考えたのです。

ミクロを解明することが当事者の救済につながる。そう信じて、25年にわたりDNAの研究に取り組みました。ところが、どうやら部品の研究では精神の病気は解明できないのではないかと思い始めます。心が脳に宿るのは間違いなさそうだけれど、脳を解体しても心は分かりそうにない。統合失調症は脳の不調で生じているようだけれど、薬で部品を修理するだけで当事者は健康を回復しないらしい。健やかに治るには、文脈を生きる人としてもてなされる(・・・・・・)必要がある。そんな当たり前のことを、25年部品を研究してきて気付きました。

私が経験した曲折は、精神医学の曲折でもありました。それは、1980年代に精神医学が生物学に大きな期待を寄せたからです。全体は部分の集まりであるという生物学の発想から、操作的診断もマニュアル化された投薬も提案されたのです。つまり、チェックリストを使って不具合を発見し、こわれた部品は薬で修理するか交換(臓器移植)すればいい。はたして、こうした思想は当事者と家族へ、どのような世界を提供したのでしょうか。

平成26年11月14日、5人の当事者と家族が千駄ヶ谷で集まりました。当事者で家族の小児精神科医(夏苅郁子先生)、家族であるマンガ家さん(中村ユキさん)、当事者の芸人さん(松本ハウスさん)、家族である分子生物学者(糸川昌成)。それぞれが生きのびた過去と回復した現在について語り合い、互いの生き方を確かめ合いました。自分たちが経験した過去よりも、少しでも未来が良くなりますようにと祈りをこめて。

総合討議

総合討議

 
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