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開催報告

第4回都民講座:「若年性認知症を地域で支えるために」

東京医学総合研究所は都民の皆様向けに年8回ほど講演(都民講座)を行い、当研究所の研究成果の一端や関連する最新情報などを分かりやすくお伝えしています。

講師:熊本大学神経精神科教授池田 学

池田 学

「若年性認知症」とは64歳までに認知症を発症する場合を言います。老年期(65歳以上)発症の認知症と異なり、家計や家庭を支えている年代であること、高齢者の場合より社会的支援体制が不十分であることなど、多くの問題を抱える領域です。講師の池田学熊本大学教授は、本邦における認知症臨床医学の中心的研究者・指導者のひとりであるとともに、全国に先駆けて、熊本県において、認知症疾患医療センターを核とする認知症の医療・支援体制を構築したことでも知られています。その手法は「熊本モデル」と呼ばれ、他の地域における認知症疾患医療センター整備の見本となっています。

池田先生の講演は、まず若年性認知症の診断の難しさを説明することから始まりました。老年期の認知症は発症から平均3年で専門外来を受診するのに対して、若年性認知症では平均5年を要するという調査結果が示されました。本人・家族にも、かかりつけ医にも、「まさかこの年齢で認知症とは、、、」という先入観があります。さらに、臨床像が高齢発症の場合と異なることがあります。まず、高齢者では過半数を占めるアルツハイマー病の割合がやや低く、かわりに前頭側頭型認知症が多い、アルツハイマー病であっても若年性の場合は、男女差がなく(高齢では女性>男性)、記憶障害はやや軽く、一方、注意障害、視空間性障害、言語理解障害などは重い傾向があるなど病像が異なります。

適切に診断されたとしても、その後の治療や介護に難しい点があります。仕事をどうするか、それに関連して家庭の経済的問題、デイケアに通う場合でも対応可能な施設が少ないこと(居場所のなさ~大半の施設は高齢者を前提としたプログラムを提供している)などが若年性認知症の医療・介護を困難にしています。さらに行動症状が強く社会的トラブルを引き起こすことが多い前頭側頭型認知症の割合が大きいことも問題です。

このような説明の後、上述の「熊本モデル」はこのような若年性認知症の当事者・家族を支える機能も果たしていることが紹介されました。熊本大学が基幹型センターとなって人材育成につとめ、県内9ヶ所に設置した地域拠点型センター(県内全域に“乗用車で30分以内の距離”を目安に配置されている)に専門家を派遣して、そこを起点として地域包括支援センターやかかりつけ医との連携をはかることで、より専門性の高い医療・支援の提供が可能になったということでした。

認知症・高次脳機能研究分野 秋山 治彦

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