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プロテオグリカンがシナプスの可塑性を調節するメカニズムを解明

米国科学雑誌「Cell Reports」に神経回路形成プロジェクトの神村圭亮主席研究員らが「プロテオグリカンがシナプスの可塑性を調節するメカニズムを解明」について発表しました。

脳神経回路形成プロジェクト 主席研究員神村 圭亮


シナプスの形態や伝達効率は神経活動により変化することが知られています。このような「シナプスの可塑的変化」は、学習・記憶等の高次脳機能の基盤と考えられていますが、その作動原理については未だに多くのことが分かっていません。私たちは、シナプスの可塑的変化のメカニズムを明らかにするため、グルタミン酸作動性シナプスのモデルとして知られているショウジョウバエの神経筋接合部を用いて研究を進めてきました。その結果、ヘパラン硫酸プロテオグリカン*の一つであるグリピカン(Dlp)がシナプスの可塑的変化を調節することを明らかにしました。

これまでの報告から、ショウジョウバエを餌の無い環境にしばらく置くと、体内においてオクトパミン(脊椎動物のアドレナリンに機能的に相当)が増加し、シナプスの数と個体の移動速度(探餌行動)が増加することが知られていました。私たちは、先ず飢餓時におけるオクトパミンの増加がシナプス後部におけるDlp のレベルを抑えることを見出しました。また、Dlp のヘテロ欠失個体やノックダウン個体では、餌のない状況においてもシナプスの数や個体の移動速度に変化は観察されませんでした。このことから、Dlp はオクトパミンによって発現レベルが変化することでシナプスの可塑的な形態変化と探餌行動を調節することが分かりました。一方、これまで多くの哺乳動物を用いた研究から、細胞膜表面におけるグルタミン酸受容体の量的変化がシナプスの可塑性を調節することが明らかにされています。私たちは、ショウジョウバエにおいてもグルタミン酸受容体(GluRIIA)は飢餓時に増加することでBMP シグナルを介したシナプス形成と探餌行動を調節すること、またこのGluRIIA の増加にはDlp が必要であることを見出しました(図)。以上の結果から、Dlp は飢餓時においてシナプスにおけるGluRIIA のレベルを調節することでシナプスと行動の可塑的変化を調節することが分かりました。重要なことに、プロテオグリカンは自閉症や統合失調症等の疾患に関与することが報告されています。したがって、今後は本研究をさらに進めることによって、これらの疾患の病因解明に役立つことが期待されます。

シナプスと行動の可塑的変化におけるグリピカン(Dlp)の作用機序

図.シナプスと行動の可塑的変化におけるグリピカン(Dlp)の作用機序


用語解説

※ プロテオグリカン:
タンパク質にグリコサミノグリカンと呼ばれる糖鎖が共有結合した分子であり、細胞膜表面と細胞外マトリックスの主要な構成成分として知られている。
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