Apr. 2020 No.037
社会健康医学研究センター(心の健康ユニット) 主席研究員中西 三春
世界的に人々はより長生きになり、多くの国で認知症は公衆衛生における優先課題と認識されるようになっています。2017 年に英国医学誌ランセットで、認知症の予防・介入・ケアに関する医学研究の科学的論拠を集めた論文が発表されました。その論文によれば、認知症の35%は9つの制御可能なリスク要因に対処することで予防可能とされています。しかし、リスクの低減と同時に、認知症の人がより良く生きられるための地域型アプローチにも関心が払われるべきです。
そこで本シンポジウムでは、認知症と共により良く生きるという視点に立ち、世界的な知見、新たな発想、革新的な取り組みを共有することとしました。認知症の人とご家族が辿る経過を広くカバーするねらいで、①認知症予防、②診断後の早期から始まるケア(認知症緩和ケア)、③一般急性期病院におけるケア、および④終末期ケア、について各国のご専門の先生をお招きしました。また東京都の先駆的な認知症ケアモデルを国際発信する目的で、東京都と都医学研が共同開発した認知症ケアプログラムの概要を紹介しました。
まず英国ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのClaudia Cooper 先生に、心身の健康を高める取り組みが認知症のリスクを低減するという科学的根拠と、人々の実生活における健康習慣を向上するためのプログラムをご紹介いただきました。
オランダ・ライデン大学医療センターのJenny T. van der Steen 先生からは、認知症緩和ケアという考え方をご教授いただきました。認知症の診断を受けたご本人とご家族は、いろいろな不安と心配を抱えながら過ごしています。それに対する支援として、将来のケアについて継続的に話し合う、アドバンス・ケア・プランニングをご紹介いただきました。
国立がん研究センター東病院の小川朝生先生は、一般急性期病院に身体疾患の治療目的で入院する患者さんが認知症を併発している場合のケアの現状と、今後のケアの質向上を目指した取り組みについてご講演いただきました。
最後にカナダ・シャーブルック大学のMarcel Arcand先生より、人生の終末期を迎えた認知症の人とご家族を支えるケアのあり方をご教授いただきました。またご本人・ご家族や職員に情報提供を行うためのガイドブックを開発し、他国に導入された経緯をご紹介いただきました。
本シンポジウムでは研究者のみならず、認知症介護に携わる従事者の方々に多くご参加いただきました。世界の先駆的な取り組みの中に、ご自身の考えと相通ずるところを見い出し、日々の実践に取り入れていただけることを願っています。