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手の運動機能を持たない脳領域に人工神経接続システムを使って、新たに運動機能を付与することに成功

西村幸男 脳機能再建プロジェクトリーダーらは、「脳梗塞により損傷した神経経路を神経インターフェイスでバイパスすると脳活動を狙った状態に誘導できる」について「Nature Communications」に発表しました。

脳機能再建プロジェクトリーダー西村 幸男


研究の概要

一般的に脳梗塞を発症した場合、その機能回復は1カ月以上の懸命なリハビリの末、ようやく回復の可能性が生じるものです。しかしながら、本研究では、モデル動物は人工神経接続システム(*1、図1)を利用し始めてから、わずか10分程度で麻痺した手を自分の意志で動かせるようになりました。

その際、人工神経接続への情報の入力の源になる大脳皮質(*2)の脳活動は、麻痺した手の運動を上手に動かすことができるようになるのにしたがって変化し、手の運動を司る脳領域が小さくなるように脳活動の適応が起こりました。また、脳梗塞の発症前の脳領域の役割に関わらず、手以外の顔や肩の運動を司る脳領域や、元々運動機能を持たず感覚機能を司る体性感覚野であっても、人工神経接続システムを介して手の運動をコントロールする機能を持たせることができました(図2)。このことは、脳の手以外のどの領域でも運動野の手の領域として、新たに別の役割を担わせることができることを意味します。

図1.脳と筋肉を繋ぐ人工神経接続システム

図1.脳と筋肉を繋ぐ人工神経接続システム

研究グループが開発した「人工神経接続システム」は、脳の神経細胞と似たような役割をするコンピューターで、上位の神経細胞の情報を受け取り(入力)、次の細胞にその情報を伝える(出力)ように設計されている。これを利用して、脳梗塞により脳と脊髄を繋ぐ神経経路を損傷しているモデル動物の損傷部位をバイパスし、脳の信号を麻痺した筋肉に伝えた。

入力:脳表面の複数の脳領域から脳の電気信号を記録し、その記録された信号から特定の脳活動を見つけ出し、脳活動パターンを検出する。

出力:その脳活動パターンを電気刺激の周波数の変調と電気刺激の刺激強度の変調に変換し、その電気刺激を筋肉へ伝える。

図2.人工神経接続による脳活動の柔軟な再適応

図2.人工神経接続による脳活動の柔軟な再適応

顔や肩の運動を司る脳領域が、人工神経接続を介して麻痺した手を自分の意思で動かせるようになった。また、もともと運動機能を持たない脳領域で感覚機能を持つ体性感覚野でも、同様に、麻痺した手を動かせるようになった。

今後の展望

本研究成果は、脳梗塞患者にとって、本来は手の動きを司っていない脳部位に新しい機能を付与することで、失われた運動機能を再獲得するための革新的な治療法となり、実質的な臨床応用が期待されるとともに、コンピューターと脳を融合させる新たな治療へとつながるものと考えられます。さらに、今後は長期にわたって人工神経接続システムを使うことで、脳の損傷を免れた神経回路を強化し、人工神経接続システムの使用をやめた後も、自分の意志で身体を動かせるように回復できるか検証していく予定です。


用語解説

※ 1:人工神経接続システム
脳の神経細胞と同じような働きをするコンピューターを用いて、脳の表面の複数の領域から神経細胞が発する情報(電気信号)を記録し(入力)、その情報から特定の脳活動を見つけ、脳活動パターンを検出して電気刺激に変換し、筋肉(末梢にある神経細胞)へ伝える(出力)ことで動かすことができるシステム。
※ 2:大脳皮質
大脳の表面に広がる神経細胞の薄い層で、知覚、随意運動、思考、推理、記憶といった脳の高次機能を司る。
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