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開催報告

2022年度 第1回 都医学研都民講座(2022年4月22日 開催)
「がんの分子生物学と治療法開発の動向」

幹細胞プロジェクトリーダー原 孝彦

2022 年度の第1回都民講座を東京医科大学の中村卓郎教授をゲスト講師にお迎えして、対面+オンラインのハイブリッド形式にて開催しました。長引くコロナ禍によって、人々の感染症対策は強化されましたが、その反面、病院の定期検診の延期等によってがんの早期発見に影響が出ていると聞きます。そこで、今回の都民講座では、がんがどのような仕組みで起こるのかを理解してもらうこと、そして現在のがん治療の進展状況を知って頂くことを目的としました。

まず初めに、私が、現在取り組んでいる新しいがん免疫療法の探索研究の概要を説明しました。近年、免疫チェックポイント阻害薬であるオプジーボが開発され、治療困難であった黒色腫や肺癌の患者さんの命を救えるようになりました。しかし、約7割の肺癌患者さんにはオプジーボが効かないため、樹状細胞やT 細胞の働きを強化する併用療法の開発が強く求められています。我々は、この局面を打開するために新しいワクチンアジュバントの開発とがん抗原を見つけるための基礎研究を鋭意進めています。

続いて、中村教授から、がんという病気の原因と治療方法について基礎からわかりやすく解説して頂きました。がん細胞は、正常細胞が分裂する過程で増殖に関連する遺伝子に変異が入ることによって起こります。変異には、がん細胞の増殖力を高める遺伝子(癌遺伝子)の活性増強変異と、増殖にブレーキをかける遺伝子(癌抑制遺伝子)の機能消失変異とがあります。両者の組み合わせによって、がん細胞は、異常な増殖速度、細胞死耐性、他の臓器への転移と浸潤、そして毛細血管の誘導といった、正常細胞が持っていない各種の性質を獲得します。固形癌の場合には、構成する細胞が役割分担を持っていて、基底部に抗癌剤抵抗性の癌幹細胞があり、周囲の癌細胞は免疫系による炎症反応の起点となります。癌細胞自身は免疫監視機構から逃れる様々な変異を獲得するため、炎症性サイトカインが癌組織の拡大に有利に働くこともあります。このように、癌は早期に発見しないと治療困難になる厄介な病気です。これらの背景から、本講演では、日常生活で気をつけるべき「がんにならないための10 か条」があらためて提示されました。中村教授は、日本癌学会の広報部長を長年勤めてこられたので、説得力が十分にある講演でした。

最後に、骨肉腫に対する新しい抗がん剤の開発に向けた貴重な実験データも紹介して下さいました。今回参加して下さった都民の皆様とともに、がん治療の基礎と方向性を学べた時間であったと思います。

原プロジェクトリーダー、東京医科大学 中村先生
左から原プロジェクトリーダー、東京医科大学 中村先生
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