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神経細胞におけるシード依存的なαシヌクレインのリン酸化はシナプスから始まり軸索を経て細胞体へと広がる

認知症プロジェクト 主席研究員鈴木 元治郎

アルツハイマー病などの神経変性疾患では多くの場合その病気に特徴的なタンパク質の凝集体が患者脳で観察されます。凝集体の蓄積と病変の広がりが相関していることから、凝集体が神経細胞を伝播し、神経変性を引き起こしていると考えられます。これまでに、試験管内で形成したタンパク質凝集体をシードとして、マウスなどの脳内に注入すると、数か月後に患者脳と類似した異常タンパク質の凝集体が形成されることが報告されてきました。しかし、このようなシード依存的な異常タンパク質の蓄積が、いつ?どこから?どのようにして?脳内に広がるかはわかっていませんでした。

パーキンソン病などの疾患ではリン酸化したαシヌクレインというタンパク質の凝集体が患者脳内で観察されます。試験管内で形成したαシヌクレイン凝集体をシードとして野生型マウスの脳内へ注入すると、1か月後にはシード依存的なリン酸化αシヌクレイン凝集体が形成されることが報告されています。そこで、αシヌクレイン凝集体をシードとして野生型マウスの脳内に注入し、より早期でのリン酸化αシヌクレインの出現を調べました。すると注入後3 日でドット状のリン酸化αシヌクレインが確認され、5 日後には線状の、14日後には神経細胞体に凝集体状のリン酸化αシヌクレインが出現することがわかりました(図a)。また、注入後5 日でのリン酸化αシヌクレインはシナプスや軸索に局在し、神経細胞体には局在しないことがわかりました(図b)。また、培養神経細胞にαシヌクレイン凝集体を添加しても同様の挙動が認められました。以上から、シード依存的なリン酸化αシヌクレインは、神経細胞のシナプスから出現が始まり、軸索上への局在拡大を経て、神経細胞体で凝集体を形成することがわかりました。

本研究により、シードとなるαシヌクレイン凝集体はシナプスから取り込まれる可能性が示唆され、神経細胞へのαシヌクレイン凝集体の取り込みを解明する端緒となることが期待されます。また、これまでのマウス脳内へのタンパク質凝集体注入実験では、注入後1か月以上経てからの病理形成をモニターしていましたが、注入後5日程度で明らかな病理が形成されることがわかり、マウス脳内への凝集体注入による病理形成実験が大幅に短縮されることが期待されます。

図 野生型マウス脳内におけるシード依存的なリン酸化αシヌクレインの局在変化
図 野生型マウス脳内におけるシード依存的なリン酸化αシヌクレインの局在変化
a
試験管内で形成したαシヌクレイン凝集体を野生型マウスの海馬に注入後3,5,14日でのリン酸化αシヌクレイン(αSyn)の局在(左)と神経細胞体マーカ―(NeuN)との共染色像(右)。14日後になると神経細胞体に凝集体状のリン酸化αシヌクレインが蓄積していることがわかる(白矢頭)。
b
注入後5 日でのリン酸化αシヌクレインと各種神経細胞マーカーとの共局在。リン酸化αシヌクレインは神経細胞体マーカー(NeuN;上段)とは共局在しないが、シナプスマーカー(シナプシンI;中段)や軸索マーカー(タウ;下段)とは共局在することがわかる。
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