Jul. 2022 No.046
脳機能再建プロジェクト 主任研究員鈴木 迪諒
動機づけは私たちの行動を大きく左右します。オリンピックでは世界新記録が生まれやすいですが、その背景にはアスリートたちの金メダルに対する強い動機づけが最良のパフォーマンス発揮を支えているのではないかと考えられます。これまでの先行研究によって、動機づけには腹側中脳と呼ばれる脳領域が関与していることはわかっていましたが、この領域が運動出力へ直接影響を与えるのかという点は明らかではありませんでした。
今回私たちの研究グループは、動機づけに関わる腹側中脳(腹側被蓋野・黒質緻密部・赤核後部)が運動出力を制御可能な神経基盤を明らかにすることを目的に実験を行いました。
これまで腹側中脳から運動を司る大脳皮質の一次運動野へ神経投射が存在していることは知られていましたが、腹側中脳が筋活動を制御する脊髄にまで投射を伸ばしているのかは不明でした。そこで、シナプス(神経間の接続部)を超えて神経経路を標識可能な逆行性神経トレーサーを用いて、腹側中脳から脊髄への2 シナプス性の神経経路の存在を明らかにしました(図1)。次に、腹側中脳から脊髄への神経経路が筋活動生成に貢献するかを調べるために、腹側中脳を電気刺激によって活性化させました。その結果、腹側中脳の活性化によって、一次運動野と上肢筋の活動が誘発されることを発見しました(図2)。また、刺激強度が高いほど誘発される筋活動は大きくなりました。これは、腹側中脳の活動が高くなればなるほど大きな筋活動を生み出せることを意味します。最後に、腹側中脳-脊髄の神経経路によって生み出される筋活動に一次運動野が関与しているかを検証しました。一次運動野の活動を薬理的に抑制することによって、腹側中脳の電気刺激によって誘発される筋活動は大きく減弱しました。これは腹側中脳の刺激によって誘発される筋活動には一次運動野が貢献していることを示し、腹側中脳→一次運動野→脊髄→筋という神経経路の伝達が筋活動生成に関わっていることを意味します。このような神経経路が動機づけによって運動パフォーマンスが向上することに寄与しているのではないかと考えられます。