東京都医学総合研究所のTopics(研究成果や受賞等)

HOMETopics 2015年

TOPICS 2015

2015年2月6日

米国科学雑誌「PLOS One(プロスワン)」の2015年2月4日(米国東部時間)付オンライン版にゲノム医科学研究分野の芝崎 太参事研究員らの研究成果が発表されました。

季節性インフルエンザ(A型B型)を発症早期に検出可能な高感度イムノクロマト
~米国専門誌「PLOS ONE (プロスワン)」に発表~

東京都インフルエンザ特別研究として、(公財)東京都医学総合研究所・芝崎 太 参事研究員らは、従来の方法と比較し、季節性インフルエンザA型およびB型ウイルスを同時にしかも簡易・高感度で検出できる2種類のイムノクロマトの開発に成功しました。一つは高感度蛍光イムノクロマトキットとその測定機器で、従来よりも100倍以上の高感度を達成し、鼻咽頭ぬぐい液ならば発症3時間以内でも検出可能になりました。二つ目は、感度が従来よりも10倍の高感度でありながら測定機器を使わず2種類の検出をカラーの色合いで識別できるカラーイムノクロマトです。屋外や電気設備場ない場所、価格の問題で測定機器導入が難しい場合などでは、蛍光イムノクロマトよりは感度が落ちるものの、A型、B型の判定をカラーで同時に目視判定できるカラーイムノクロマトの使用が考えられます。

今回開発した2つイムノクロマト法では、A型、B型の両方を同時に高感度で検出でき、しかもA型の検出においては、鳥インフルエンザを起こすH5N1ウイルスの他にもH2、H3、H7、H9など、これまでアジア各国で発生しているウイルス亜型株や、今後発生する可能性のある亜型株のすべて検出できるため、一次スクリーニングには大きな威力を発揮することが期待されます。また、これらのイムノクロマトは、検出する抗体を代えるだけで、他の感染症にも容易に応用できるため、国内だけでなく発生地区や、空港など感染症が侵入する第一線現場での使用が可能となります。

なお、この開発は東京バイオマーカー・イノベーション技術研究組合(TOBIRA、理事長:田中啓二)の組合員であるシンセラ・テクノロジーズ(株)(東京本社、代表取締役 村口和孝)、コニカミノルタ(株)(東京本社、代表執行役社長:山名昌衛)、アドテック(株)(大分本社、代表取締役:渡辺幹雄)、および北海道大学・大学院獣医学研究科(迫田義博教授)の産学連携によるものであり、2つのイムノクロマトは、すでに2014年6月には厚労省の認可を得ており、カラーイムノクロマトは2014年12月からすでに販売されています。また、高感度蛍光イムノクロマトは早期販売に向けた製造が進められているところです。 この開発には一部経済産業省の平成22年度「課題開発型医療機器の開発・改良に向けた病院・企業間の連携支援事業」による助成を受け行いました。

この研究成果は、蛍光イムノクロマト法が米国科学雑誌「PLOS One(プロスワン)」の2015年2月4日(米国東部時間)付オンライン版で発表されました。カラーイムノクロマトは、米国科学雑誌「Journal of Virological Methods」に2014年9月10日に発表されました。

1.研究の背景

H1N1ウイルスによるA型やB型の季節性のインフルエンザは最近では毎年発症し、さらには新型インフルエンザとして、2009年に発生したパンデミック(世界的流行)を起こしたブタ由来新型インフルエンザ(H1N1)に加え、家禽や渡り鳥の間で流行している鳥インフルエンザではH5N1ウイルスおよびH5N2ウイルス、さらには今年中国で発生したH7N9ウイルスによる感染例が報告されています。

季節性インフルエンザ(A型、B型)では、現在、簡易型のイムノクロマト法により10-15分程度で診断が可能ですが、検出感度が余り良くないため、発症直後(1-2日以内)などの早期には陰性になる事が多く、24時間以内の早期の治療薬の投与が難しいことが指摘されております。

また、今年発症が確認された中国でのH7N9ウイルスでは、鳥での発症だけでなく人から人への感染例が報告され、今後大流行する可能性も指摘されています。さらに以前から問題になっています鳥インフルエンザ(H5N1)では、全世界で500名以上の感染例があり、60%近い致死率を示すなど高病原性を持つことが報告されており、今後世界的な大流行の危険性も危惧されています。このため高感度で、H変異株すべてを検査可能な高感度で簡易な検査法の確立が望まれていました。

2.開発の内容

東京都は平成20年よりこれらの危険なインフルエンザへの対応として、診断法、治療薬の開発を進めてきました。この度、(公財)東京都医学総合研究所の芝崎等は、東京バイオマーカー・イノベーション技術研究組合の各社、各大学、都立病院などの臨床病院との産学医連携にて、従来のイムノクロマト法の100倍以上の高感度で季節性A型およびB型インフルエンザウイルスを検出できる高感度蛍光イムノクロマトとその検出機器の開発に成功しました。この方法では、従来の金コロイドを使用する方法に代え、蛍光色素を抗体に結合させた蛍光イムノクロマト法を独自に開発し、さらにこの蛍光色素を高感度に測定できる小型検出機器を開発することで高感度化に成功しました。

(1) 高感度蛍光イムノクロマト法

蛍光イムノクロマトリーダー(測定機器)を用いることで、通常の鼻咽頭ぬぐい液にて、最長15分以内にA型、B型の両方を同時に100倍以上の高感度で検出できます。この方法は鼻咽頭拭い液を用いて、従来法と同じ手順、同じ時間内(最長15分以内)で高感度に測定可能です。臨床試験では通常の鼻咽頭ぬぐい液を用いたA型判定の場合、発症12時間以内に97%の患者さんで陽性判定が可能でした。中には発症3時間以内の患者さんでも検出可能であることが実証されたため、発症早期の診断による治療開始が可能となります。

(2) カラーイムノクトマト

従来よりも10倍の高感度ですが、測定機器が不要でカラーによる識別のために読み違いがなく診断できます。蛍光イムノクロマトよりは感度が落ちるものの、屋外や電気設備場ない場所、価格の問題で測定機器導入が難しい場合に有用です。

3.今後の展望

今回開発した高感度蛍光イムノクロマトでは、100倍の高感度化が達成されたため、患者さんによっては発症3時間以内に診断できることも実証されました。これにより従来では発症早期(特に12時間以内)に陰性で処方できなかった薬剤を処方できるようになることや、将来的には簡便な咽頭のぬぐい液を用いて薬局などで診断が可能なることが予想されます。一方、カラーイムノクロマトは、従来品より10倍の感度でありながら、測定機器が不要なため、小さなクリニックでも容易に導入できます。将来的には製造価格も安く抑えられるため、アジア各国などインフルエンザ発生地区において、初期診断やサーベイランスにも用いることが期待されます。

今回、北海道大学・迫田義博教授との共同研究にて行った自然分離株での検定では、両方のイムノクロマトでも、A型判定で、H1N1(2009年の新型インフルエンザも含む)を始めとするH2、H3、H5N1(高病原性トリインフルエンザ株)H7、H9の各亜型株すべてを検出できることが判明しました。季節性インフルエンザA型、B型以外は保険点数外になりますが、高病原性トリインフルエンザのパンデミックや新しいタイプのインフルエンザ発生の際には、空港、クリニックなどでも使用可能であり、診断の補助手段として早期の発見だけでなく、ワクチンや治療薬の準備、囲い込みの効率化におおきく寄与できることが期待されます。

さらに、これらのイムノクロマトは、検出する抗体を代えるだけで、他の感染症にも応用できるため、現在問題となっているデング熱、エボラなどの新興感染症の際のウイルス検出への応用も可能です。

【用語説明】

1. 東京バイオマーカー・イノベーション技術研究組合(Tokyo Biomarker Innovation Research Association; TOBIRA [通称:とびら]):(http://www.tobiraproject.or.jp/index.html)

(公財)東京都医学総合研究所は、「予防・早診完治、健康増進」を目標に, 診断・医療機器の開発を加速させるため、東京都にある地方独立行政法人東京都健康長寿医療センターや公立学校法人首都大学東京に加え, 国立大学法人東京農工大学と連係し、H23年8月31日に経済産業省の大臣認可を受け本格的な活動を開始しました。日本各地の特色ある技術を有する企業やバイオベンチャー11社が組合員として参加しています。都立病院等との医療連携により高病原性インフルエンザの遺伝子診断の簡易・高速遺伝子診断法、遺伝病であるファブリー病の早期診断や子宮頸がんワクチン効果判定、高齢者リハビリ効果や筋萎縮を定量的に評価する診断システムや高速画像診断システム等の研究開発に取り組んでいます。将来的には医療IT分野、 医工連携による医療機器の研究開発、創薬支援にも取り組みます。

2.イムノクロマト法:

ニトロセルロース膜上を被検体が試薬を溶解しながらゆっくりと流れる性質(毛細管現象)を応用した免疫測定法である。一般的には、検体中の抗原は検体滴下部にあらかじめ準備された金属コロイド等で標識された抗体(標識抗体)と免疫複合体を形成しながらニトロセルロース膜上を移動し、膜上にあらかじめ用意されたキャプチャー抗体上に免疫複合体がトラップされ呈色し、それを目視により判定する。妊娠診断等で応用されている。

  1. キット上に検体を滴下する
  2. 一定時間放置する
  3. 目視による定性判定する(コントロールラインを必ず確認する)
メリット
  • 目視判定による定性判定が可能な項目がある
  • 装置を必要としない(一部読み取り装置有り)
  • 簡便である
  • キットの保管方法が簡便(多くは室温保存)
  • 必要な検体数だけ取り出して実施できるため無駄が無い
デメリット
  • 目視による判定のため、個人による判定誤差が見られる
  • 定量試験向きではない
  • 測定時間を厳守しないと、陰性、陽性の判定が異なることがある
  • ロット間差、試薬間差が存在する

3.高病原性トリインフルエンザ(H5N1):

参考資料
  1. 厚労省、鳥インフルエンザ緊急総合対策(H16年3月16日)
    (http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou02/02-01.html)
  2. 東京都感染症情報センター
    (http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/diseases/avianflu/)
  3. Yahoo ヘルスケアー
    インフルエンザ対策関連情報2012-2013から
    (http://health.yahoo.co.jp/column/influenza/)

TOPICS 2015一覧はこちらへ

ページの先頭へ