東京都医学総合研究所のTopics(研究成果や受賞等)

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2026年8月17日
再生医療プロジェクトの宮岡佑一郎プロジェクトリーダーらの研究グループは、「融合により染色体数を倍加させたiPS細胞を用いて心筋細胞の成熟に伴う染色体倍加を再現し機能を高める技術を開発」についてCommunications Biologyに発表しました。

融合により染色体数を倍加させたiPS細胞を用いて
心筋細胞の成熟に伴う染色体倍加を再現し機能を高める技術を開発

当研究所 再生医療プロジェクトの宮岡佑一郎プロジェクトリーダーの研究グループでは、ヒトiPS細胞に様々な改変を加えることで、疾患の治療法の開発を進めています。
この度、細胞融合により染色体数を倍加させたiPS細胞(4倍体iPS細胞)を樹立しました。この4倍体iPS細胞を心筋細胞へと分化させることで、生体内で心筋細胞の成熟に伴って起きる染色体倍加を再現し、心筋機能を高める技術の開発に成功しました。
本研究成果は、2026年8月17日(月)に英科学雑誌「Communications Biology」オンライン版に掲載されました。

論文情報

<論文タイトル>
“Derivation of human post-mitotic cardiomyocytes from tetraploid iPSCs”
(4倍体iPS細胞由来ヒト分裂期後心筋細胞の作製)
<発表雑誌>
Communications Biology
DOI: https://doi.org/10.1038/s42003-026-10763-2
URL:https://www.nature.com/articles/s42003-026-10763-2

概要

私達の体の細胞から作製でき、あらゆる細胞に分化可能なヒトiPS細胞は、多様な医療応用の可能性を切り拓いてきました。当研究所 再生医療プロジェクトの宮岡佑一郎プロジェクトリーダーの研究グループでは、このヒトiPS細胞に遺伝的な改変を加えて、疾患の治療法の開発を進めています。本研究において、当プロジェクトの中島一徹研修生(当時、東京科学大学大学院生)と宮岡プロジェクトリーダー(兼任:東京科学大学大学院 医歯学総合研究科 連携准教授、お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科 客員准教授)、ナニオンテクノロジーズジャパン株式会社の嶋根三好氏らの研究グループは、細胞融合により染色体数を倍加させたiPS細胞(4倍体iPS細胞)を樹立し、この4倍体iPS細胞を心筋細胞へと分化させることにより、生体内で心筋細胞の成熟に伴って起きる染色体倍加の現象を再現し、心筋機能を高める技術の開発に成功しました。従来、iPS細胞由来の心筋細胞は未熟で胎児期に近い状態であることが医療応用に向けて課題となっていました。本研究では、心筋細胞が成熟に伴って染色体数を倍化させることに着目し、4倍体化した心筋細胞を作製することで、成熟に近い機能をもつ心筋細胞を得ることに成功しました。これにより、心不全の移植治療や新薬の効果・安全性試験、疾患メカニズム解明のための疾患モデル構築など、多様な医療応用への貢献が期待されます。

図1
図1. 通常のiPS細胞は2倍体であり、この2倍体iPS細胞由来心筋細胞はほとんど2倍体にとどまることから、私達の体の中で成熟に伴って起きる心筋細胞の4倍体化を再現できない。そこで本研究では、細胞融合によってiPS細胞自体を4倍体化させてから心筋細胞に分化させることで、染色体倍加を再現した心筋細胞を作製した。期待通り、4倍体iPS細胞由来心筋細胞は、より成熟した特徴を示した。

研究の背景

私達の体のほとんどの細胞は、23対46本の染色体を持つ2倍体です。1番から22番の常染色体、23番目の性染色体を、それぞれ1本ずつ両親から受け継ぐことで2倍体細胞として存在しています。しかし、心筋細胞や肝細胞など、一部の細胞種では成熟に伴い染色体セット数が増える「染色体倍加」が起きます。成人の心筋細胞の約8割は、23種類の染色体を4本ずつ持つ4倍体心筋細胞です。

ヒトiPS細胞は多様な細胞に分化することができ、中でも心筋細胞は既に移植の治験が進むなど、その応用に大きな期待が寄せられています。しかしこれまで、iPS細胞由来心筋細胞は未熟で胎児期のような状態であり、成熟度向上が医療応用に向けて課題となっていました。私達は、これまでのiPS細胞由来心筋細胞は、成熟に伴って起きる染色体倍加がほとんど起きていないことに着目し、iPS細胞から4倍体心筋細胞を作製できれば、心筋細胞の機能向上が期待できると考えました。

研究方法と成果

これまでの技術ではiPS 細胞由来心筋細胞を4倍体化することができませんでした。本研究では、2倍体iPS細胞由来心筋細胞の4倍体化を目指すのではなく、iPS細胞そのものを4倍体化させてから心筋細胞に分化させればよいのではないか、と考えました。

そこで私達は、これまでも細胞融合に一般的に用いられてきた、細胞を融合させる作用のあるセンダイウイルス粒子を用いて2倍体iPS細胞同士を融合し、4倍体iPS細胞を樹立しました(図2A)。4倍体iPS細胞は従来の2倍体iPS細胞よりも細胞サイズがやや大きく(図2B)、4本セットの染色体を安定に保持し(図2C)、多分化能も維持していました。

図2
図2. ヒトiPS細胞融合
(A) センダイウイルスによる細胞融合。(B) 2倍体と4倍体iPS細胞。(C) 融合4倍体iPS細胞の核型解析。

この4倍体iPS細胞を心筋細胞に分化させたところ、2倍体由来と比べて大きな細胞サイズを示しました。(図3A)。生体内においても成熟に伴いサイズは増加します。次に、RNAseqによって、遺伝子発現様式を解析したところ、4倍体由来の心筋細胞では、2倍体由来と比較して、細胞周期関連遺伝子群の発現が顕著に低下していました。生体における心筋細胞も、2倍体である胎児期には盛んに増殖しますが、成熟に伴い4倍体となり増殖を停止します。これらは4倍体由来の心筋細胞が、より成熟心筋細胞に似た遺伝子発現様式を持つことを示しています。また、心筋細胞はその収縮に多くのエネルギーを必要とするため、成熟とともにミトコンドリア量が増加し、機能が向上します。そこで、ミトコンドリアを解析したところ、量の増加と機能の向上が認められました(図3B)。さらに、電気生理学的解析のために、電気抵抗値を測定しました。プレートの底面に接着した心筋細胞の拍動に伴い、細胞内構造が変化することで、電気抵抗値が上昇します。その結果、4倍体由来心筋細胞は、2倍体由来と比較して、強く、速く収縮することが明らかとなりました(図3C)。強く速い収縮もまた、成熟した心筋細胞の特徴であり、この解析においても、4倍体由来心筋細胞がより成熟している傾向を示していました。

図3 4倍体iPS細胞由来心筋細胞の解析
図3. 4倍体iPS細胞由来心筋細胞の解析
(A) 2倍体および4倍体iPS細胞由来心筋細胞の収縮を担うタンパク質であるcTnTを染色した結果。4倍体iPS細胞においてもcTnTが発現し、2倍体iPS細胞由来心筋細胞よりも大きいことがわかる。(B) ミトコンドリアを緑色に染色した結果。4倍体iPS細胞においてミトコンドリア量が増加していることがわかる。機能も亢進していた。(C) 電気抵抗値測定による、心筋の拍動様式の解析。赤で示す4倍体iPS細胞由来心筋細胞の方が、ピークが高く、またピークの立ち上がりが速いことがわかる。これは、4倍体iPS細胞由来心筋細胞の方が、強く速く収縮していることを示す。

社会的意義

本研究により、4倍体iPS細胞由来の成熟した心筋細胞を作製する技術が確立されました。従来の2倍体iPS細胞由来の未成熟な心筋細胞の課題を克服し、再生医療や創薬研究の発展に貢献することが期待されます。また、肝細胞、骨格筋細胞、巨核球、破骨細胞など、染色体倍加を伴う他の細胞腫の研究や再生医療へ応用にも有用であると考えられます。

<本研究の主な助成事業>

本研究は、文部科学省研究補助金JSPS KAKENHI、テルモ生命科学振興財団 研究助成、先進医薬研究振興財団 循環医学分野 一般研究助成、循環器病研究振興財団 バイエル循環器病研究助成の支援を受けて行われました。

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