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野生型マウスを用いたタウ蓄積の脳内伝播モデル

認知症プロジェクトの鈴掛雅美主任研究員、長谷川成人参事研究員らは「野生型マウスを用いたタウ蓄積の脳内伝播モデル」について英国科学誌Brain Communicationsに発表しました。

認知症プロジェクト 主任研究員鈴掛 雅美


アルツハイマー病などの神経変性疾患脳内では神経細胞内にタウタンパク質が蓄積した病理構造物が出現します。近年の研究から、タウ蓄積病理の脳内分布の拡大(=脳内伝播)が疾患の進行に深く関与していることがわかってきました。そのためタウの脳内伝播を標的とした治療法が確立できれば上記疾患の進行を抑制できる可能性が高いと考えられ、タウ蓄積の脳内伝播を再現するモデル動物が求められています

研究の概要

アルツハイマー病患者さんの多くは遺伝性ではないことから、私たちは野生型マウス(遺伝子改変していない普通のマウス)を用いてタウ蓄積病理および脳内伝播を再現したいと考えました。さらに汎用性を高めるため、合成のタウタンパク質を用いたモデル作製を試みました。

アルツハイマー病患者さんの脳に蓄積したタウは構造変化を起こして不溶性化しており、その際アミロイド線維構造をとることが知られています。試験管内でタウの線維を作るには添加剤が必要で、これまでヘパリンが使用されてきましたが、私たちは用いる添加剤によって異なる構造のタウ線維が形成されることを見出しました(図1)。添加剤としてデキストラン硫酸を用いて作製したタウ線維を野生型マウス脳内に注入すると、注入から1か月でタウ蓄積病理の形成が認められました。さらに時間経過に伴い、注入部位と神経連絡をもつ部位への伝播が見られました。タウ線維の注入によってマウス脳内に誘導されたタウ病理は、アルツハイマー病でみられるタウ蓄積病理と同様の染色性を示し、タウのリン酸化抗体、チオフラビン染色、ガリアス染色に対して陽性であることがわかりました(図2)。

以上の結果から、野生型マウス脳内に合成のタウ線維を注入することによりタウ蓄積病理の形成および脳内伝播を再現するモデルマウスを確立することができました。このモデルマウスはタウ伝播、すなわち疾患の進行過程のメカニズム解明や、タウ伝播を標的とした新たな治療法開発への応用が期待されます。

図1

図1.合成タウタンパク質から作成したタウ線維の電子顕微鏡観察図

加える添加剤によって異なる構造のタウ線維が形成されます。添加剤としてヘパリンを加えると長いタウ線維(左)が、デキストラン硫酸を加えると短く微小なタウ線維(右)が形成されました。ヘパリン添加によってできたタウ線維はマウス脳内に注入してもタウ蓄積病理を誘導しないことが知られています。

図2

図2.マウス脳内に誘導されたタウ蓄積病理の染色図

合成タウタンパク質から作製したタウ線維を注入後、マウス脳の切片を作成し染色を行いました。マウス脳内で形成されたタウ蓄積病理はアルツハイマー病患者脳でみられるタウ蓄積病理と同様の染色性を示し、タウのリン酸化抗体(AT8)、チオフラビン染色、ガリアス染色は陽性でした

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