Apr. 2021 No.041
睡眠プロジェクトの夏堀晃世主席研究員、本多真副参事研究員は「睡眠-覚醒に伴う『脳内エネルギー変動』を発見」について英国科学誌Communications Biologyに発表しました。
睡眠プロジェクト 主席研究員夏堀 晃世
動物の脳内では、細胞のあらゆる活動に必要なエネルギーの枯渇を防ぐため、エネルギーレベルを常に一定に保つ仕組みが存在すると考えられています。その一例として、神経活動が活発化する覚醒時に脳血流が増加し、エネルギー源である酸素やグルコースが脳内へ積極的に供給されることが知られています。しかしこれらの仕組みにより、生きた動物の脳内で、細胞のエネルギーレベルが確かに一定に保たれているかどうか、これまで明らかにされていませんでした。
そこで我々は、細胞のエネルギー分子であるATP(アデノシン三リン酸)の濃度を、生きたマウスの脳から直接計測しました。その結果、大脳皮質の神経細胞内ATP濃度はマウスの覚醒時に最も高く、マウスが覚醒からノンレム睡眠(*1)に入ると低下し、さらにレム睡眠(*2)に入ると大きく低下することを発見しました(図参照)。次に、細胞のATP合成に必要なグルコース等を供給する脳血流を計測したところ、マウスの覚醒時と比較してノンレム睡眠中にやや増加し、レム睡眠中に大きく増加しました。この結果から、脳の神経細胞内エネルギーは常に一定に保たれるのではなく、エネルギー需要が高まる動物の覚醒時に増加することが分かりました。一方でレム睡眠中には、エネルギー供給に働く脳血流の増加にもかかわらず神経細胞内ATPが大きく低下したことから、神経細胞のエネルギー消費が何らかの理由で著しく亢進している可能性が考えられます。今後は本研究で得られた知見をもとに、動物の覚醒時に脳の細胞内エネルギーを増加させる代謝調節機構を明らかにします。また、レム睡眠中にみられる脳のエネルギー消費活動の解明を目指します。
大脳皮質の神経細胞内ATP 濃度はマウスの覚醒時に最も高く、レム睡眠中に最も低下した。脳血流量はレム睡眠中に最も増加した。
(出典:Natsubori et al., 2020, Commun. Biol.)