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人工オリゴ糖化合物による新しいsiRNA安定化手法の開発
~siRNA 医薬品開発への応用が期待~

分子医療プロジェクトの入江敦主任研究員(現カルパインプロジェクト)、芝崎太参事研究員(現病院等連携支援センター客員研究員)は「人工オリゴ糖化合物による新しいsiRNA安定化手法の開発」について英国科学誌Scientific Reportsに発表しました。

カルパインプロジェクト 主任研究員入江 敦


1. 研究の背景

現在実用化されている医薬品の多くは、体内で病気の原因となっている分子の働きを阻害することによって治療効果を発揮しますが、既存の医薬品によって働きを抑えることができない病気の原因分子が未だに多く存在します。人工的な核酸の一種であるsiRNA*1 は、生体内に取り込まれると任意の遺伝子の働き(遺伝子発現)を阻害し、特定のタンパク質の産生をブロックできる画期的な分子です。そこでsiRNAは、今までの医薬品が効かなかった様々な病気に対する新しい治療薬として開発が期待されていますが、RNA分解酵素によって容易に分解される不安定な性質を持ち、siRNA医薬品実用化の障壁となっています。

2. 研究の概要

siRNA分子は、2本のRNA鎖がらせん状に並んだ形(二重らせん構造)を取っています。東京理科大学薬学部の和田猛教授らのグループは、RNA二重らせんに特異的に結合することによってRNA二重鎖構造を安定化してsiRNAの分解を防ぐ、人工オリゴ糖化合物・オリゴジアミノガラクトース4量体(ODAGal4)を開発しました。和田教授らのグループと私たちのグループは共同で研究を行い、ODAGal4が数多くの種類のsiRNAの二重らせん構造を安定化し、RNA分解酵素による分解を防ぐことを見出しました。また、ホスホロチオエート修飾*2 を施したsiRNAとODAGal4を組み合わせると、飛躍的にsiRNAが安定化されることも明らかとなり、その効果は、既存のsiRNA安定化手法を大きく上回るものでした。さらに、ODAGal4とホスホロチオエートsiRNAの組み合わせは、siRNAの遺伝子発現抑制活性に影響を及ぼさず、また、細胞毒性を示すことがなく、安全性が高いことがわかりました。

3. 今後の展望

私たちが開発したODAGal4によるsiRNA安定化手法によって、siRNAの安定性を大きく向上させることが可能となりました。今後私たちの研究がさらに発展し、安定性の高いsiRNA医薬品の開発が実現できれば、siRNA医薬品の投与量や投与頻度を減らすことにつながり、患者さんの通院や経済的負担を減らすことが期待できます。

用語解説

*1 siRNA:
siRNAは21-23塩基対からなるRNA二重鎖構造を持つ人工核酸化合物です。生体内でDNAの遺伝子配列情報は、メッセンジャーRNA(mRNA)に写し取られ、このmRNAの配列をもとにして、遺伝情報に書き込まれた特定のタンパク質が合成されます。mRNAの配列情報に相補的な(特異的に結合する)配列を持つsiRNAを細胞内に取り込ませると、siRNAは、そのmRNAに特異的に結合してmRNAを分解させる特性があります。つまり、特定のmRNAに相補的なsiRNAを作製して細胞内に取り込ませると、結果的に特定のタンパク質の合成のみを抑えることが可能となります(この現象をsiRNAによる遺伝子発現抑制作用と呼びます)。
*2 ホスホロチオエート修飾:
リン酸に含まれる酸素原子の1つまたは複数を硫黄原子に置き換えたものをホスホロチオエートと呼びます。DNAやRNAといった核酸にホスホロチオエート修飾を施すと、核酸分解酵素による分解が減少するため、核酸の安定化手法として広く使用されています。
図

図.

ODAGal4はsiRNAの二重らせん構造に結合し、RNA分解酵素(RNase)による分解を防ぐ。ODAGal4はホスホロチオエート修飾型siRNAと組み合わせたときに、特に高い安定化効果を示す。

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