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特集

宇井理生先生、東京都名誉都民に!

理事長田中 啓二

東京都臨床医学総合研究所 名誉所長 宇井 理生(うい みちお) 先生が、2021年10月1日、小池百合子東京都知事から東京都名誉都民に顕彰されました。先生やご家族の方々をはじめご関係の皆様方には、大きな歓びに満ちあふれていることと思われます。心よりお祝い申し上げます。

昭和8年、東京にお生まれになられた宇井先生は、東京大学医学部薬学科をご卒業後、北海道大学医学部助手・助教授を経て同大学薬学部教授にご就任、10年余北海道でご活躍されました。そして昭和61 年に帰京、東京大学薬学部教授にご就任されてから平成5年にご退官されるまでの長きに亘り、教鞭・研究に邁進されました。この間における先生の幅広いご活動は、破竹の勢いで生命科学を席巻し、我が国の医学・薬学研究の発展に大きく寄与されました。

宇井先生は、生体機能を司る神経伝達物質やホルモンなど多くの細胞外情報を細胞内に伝達する情報伝達の仕組みを分子レベルで明らかにされ、シグナル伝達の新しい研究領域を開拓されました。即ち受容体刺激を仲介する三量体GTP結合タンパク質(Gタンパク質)の同定に関して多数の重要な業績を挙げられました。特に世界を先導された特筆すべき業績は、Gタンパク質活性を阻害することで毒性を発揮する百日咳毒素の研究でありました。この発見を契機に、この毒素を用いた広範な研究を進め、アデニル酸シクラーゼ(セカンドメッセンジャーであるcAMPを合成する酵素)の促進・抑制のみならず多彩なシグナル伝達経路にGタンパク質が広く介在することを、次々と明らかにされました。米国のギルマン博士とロッドベル博士の二人は、「Gタンパク質およびそれらの細胞内情報伝達に関する役割の発見」によって1994年のノーベル生理学・医学賞に輝きましたが、Gタンパク質が広範なシグナル伝達経路に介在することを明らかにされた宇井先生の成果が彼らの研究に大きく影響していることは、疑いの余地はありません。そして今日Gタンパク質に共役する多くの受容体は創薬の標的として脚光を浴びており、先生のご研究はその先駆けとなったものであります。

平成5年、北海道大学名誉教授・東京大学名誉教授の称号を受けられ、その後、理化学研究所特別招聘研究員、東京都臨床医学総合研究所長、徳島文理大学香川薬学部長、高崎健康福祉大学薬学部長などの重職を歴任されました。また平成14年には、財団法人東京都医学研究機構 東京都臨床医学総合研究所 名誉所長の称号を受けられています。先生の学術・教育は深遠かつ卓越した科学哲学に依拠したものであり、先生の薫陶によって育成された数多くの優秀な研究者たちは、薬学・医学分野に輩出されています。これらの比類のないご功績で、先生は、日本学士院賞、ポール・エールリッヒ国際医学賞、瑞宝中綬章、文化功労者など数々の栄誉に浴されています。加えて今回の名誉都民の顕彰は、先生が人類の智の発展に大きく貢献された証と思われます。

2021年10月1日(金)令和3年度東京都名誉都民顕彰式にて小池都知事より顕彰状を受け取る宇井理生先生(写真提供:東京都)

2021年10月1日(金)令和3年度東京都名誉都民顕彰式にて小池都知事より顕彰状を受け取る宇井理生先生(写真提供:東京都)

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