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ヒト希少遺伝疾患「NGLY1欠損症」発症機構の解明

ユビキチンプロジェクト 主席研究員吉田 雪子

私達の細胞で合成されるタンパク質のおよそ3分の1は糖鎖をもつ糖タンパク質です。NGLY1は糖タンパク質から糖鎖を切り離す酵素であり、細胞の中で一定の確率で生じる構造が異常になったタンパク質のクリアランスに関わっています。この酵素を作ることのできないNGLY1欠損症は、発育不全、四肢の筋力低下、不随意運動、てんかん、脳波異常、無涙症、新生児の肝機能障害等を引き起こす重篤な疾患です。発症の機構は不明であり、治療法もありませんでした。NGLY1を作れないNGLY1遺伝子破壊マウスは生まれてこないことが報告されていました。今回、私達は、糖鎖を認識して分解の目印「ユビキチン」を付加する「糖鎖認識ユビキチンリガーゼ」の遺伝子破壊マウスとの二重変異マウスが正常に生育することを見出しました(図)。また、NGLY1のない細胞で糖鎖認識ユビキチンリガーゼが働くと、ユビキチン化糖タンパク質を異常に蓄積することを見出しました。「プロテアソーム」は細胞の増殖や恒常性の維持に欠かせない分解装置です。蓄積したユビキチン化糖タンパク質はこの「プロテアソーム」の機能を損ない、細胞死を引き起こすことを明らかにしました。糖鎖認識ユビキチンリガーゼの活性を抑制する薬剤の開発はNGLY1欠損症の治療につながることが期待されます。

NGLY1とFBS2の糖タンパク質に対する作用機序と遺伝子欠損マウスの表現型
図 NGLY1とFBS2の糖タンパク質に対する作用機序と遺伝子欠損マウスの表現型
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