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脳オルガノイドが切り拓くヒト脳の発生・疾患研究

演者 嶋田 弘子
慶應義塾大学 再生医療リサーチセンター
チームリーダー
会場 対面式(2BC会議室)
日時 2026年3月27日(金曜日)16:00~17:00
世話人 長谷川 成人
認知症研究プロジェクト
参加方法 詳細は事前に下記問合せ先までご連絡ください
お問い合わせ 研究推進課 普及広報係
電話 03-5316-3109

講演要旨

ヒト多能性幹細胞から作製される脳オルガノイドは、神経幹細胞が分裂を繰り返しながら分化し、ニューロンやアストロサイトなど多様な細胞種が相互作用しながら三次元的に発達することで、胎生期ヒト脳の構造と発生過程を再現する画期的なモデルである。そのため、中枢神経系の発生メカニズムの解明のみならず、動物モデルでは再現が困難なヒト特有の神経疾患の病態研究においても注目されている。

我々はこれまでに認知症モデル脳オルガノイドを作製し、Aβやタウ病理を脳オルガノイド内で再現することに成功した。しかしながら、従来の脳オルガノイドには、生体脳に存在するすべての細胞種が十分に揃うわけではなく、特に発生がニューロンより遅く成熟に長時間を要するアストロサイトは、数・成熟度ともに不十分であることが課題となっていた。そこで我々は、アストロサイト分化を促進する転写因子を過剰発現させることで、成熟型アストロサイトを豊富に含むアストロサイトーエンリッチ大脳皮質オルガノイド(Astrocyte-enriched cortical organoids; ACOs)を開発した。その結果、培養9週目のACOsではGFAP陽性アストロサイトが豊富に存在し、プロテオミクス解析からはアストロサイトマーカーや細胞外基質関連タンパク質の発現増加が確認された。さらに培養13週目のACOsでは、免疫染色、電子顕微鏡解析により、シナプス数の増加やシナプス後肥厚(PSD)の成熟など、シナプス形成と機能的成熟が促進されていることが示唆された。また、ACOsをマウス大脳皮質に移植すると、ヒトアストロサイトがマウス大脳皮質の部位に応じて形態学的に異なるタイプへ分化することが明らかになった。加えて、電子顕微鏡解析により、マウス血管と移植ACOs由来ヒトアストロサイトの間に血液脳関門様の構造が形成されたことが観察され、ヒトアストロサイトと血管系の相互作用を評価できるモデルとしての有用性が示唆された。

本研究で開発したACOsは、ヒトアストロサイトの発生・成熟メカニズムの理解に寄与するだけでなく、シナプス機能障害を特徴とする精神・神経疾患や、BBB破綻を伴う疾患の解析にも応用可能である。よって、ヒト脳研究および疾患解析の新たな展開を切り開く基盤技術となることが期待される。