東京都医学総合研究所のTopics(研究成果や受賞等)

HOMETopics 2016年

TOPICS 2016

2016年1月28日

英国科学雑誌「Human Molecular Genetics」オンライン版に田中 良法 研究員、野中 隆 副参事研究員、
鈴木 元治郎 主席研究員、亀谷 富由樹 主席研究員、長谷川 成人 参事研究員らが発表

プロフィリン1遺伝子(PFN1)変異によるALS発症機構

研究の背景

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動を制御する神経細胞が変性・脱落することによって重篤な筋肉の萎縮と筋力低下を引き起こす神経変性疾患です。ALSの発症機構は解明されていませんが、孤発性※1及び多くの家族性※2ALSの患者脳・脊髄において、「TDP-43※3」という本来細胞の核に存在するタンパク質が細胞質で凝集・蓄積することが知られています。TDP-43の核内における働きは細胞の生存にとって不可欠であるため、細胞質におけるTDP-43の蓄積はALSの発症に重要な役割を担っていると考えられています。病的なTDP-43はアミロイド様の線維状構造をとり、リン酸化などの修飾を受けて細胞内に蓄積していますが、プリオン病の原因タンパク質である異常プリオン※4のように、正常なTDP-43を異常型に変換する性質があることが知られています。

近年、家族性ALSの原因としてプロフィリン1遺伝子(PFN1)の変異が同定されました。これまでの研究によって、PFN1の変異をもつ患者さんではTDP-43の細胞質内蓄積が認められること、培養細胞を用いた解析では、変異型プロフィリン1とTDP-43が細胞質内で共凝集体を形成することが示されてきました。

そこで本研究では、変異型プロフィリン1とTDP-43の蓄積の関係について詳細な解析を行いました。

研究の概要

PFN1の変異効果を調べるため、変異型プロフィリン1を培養細胞に発現させたところ、変異型プロフィリン1は不溶性の凝集体を細胞質内に形成すること(参考図1)、またその一部にTDP-43が共局在することがわかりました。TDP-43と変異型プロフィリン1を培養細胞に同時に発現させると、TDP-43の蓄積が亢進し、一部は病的なTDP-43のようにリン酸化されていることがわかりました。さらに、その細胞の不溶画分をTDP-43発現細胞に導入した場合にも、TDP-43の蓄積亢進とリン酸化TDP-43の蓄積が確認されました。以上のことから、ALSの原因となるPFN1の変異により、プロフィリン1の凝集体が形成され、それがTDP-43を補足することにより病的なTDP-43が形成されやすくなること、さらには病的なTDP-43がそのプリオン様性質により正常TDP-43を病的なTDP-43に変換して、TDP-43の蓄積を促進することが考えられます(参考図2)。

参考図1:変異型プロフィリン1の細胞質内における凝集体形成

参考図

左の「野生型」のプロフィリン1を発現させた細胞では核や細胞質内に瀰漫性(びまんせい)にプロフィリン1が局在している。一方、右の「変異型」のプロフィリン1を発現させた細胞では細胞質内に顆粒状のプロフィリン1(プロフィリン1凝集体)が局在していることがわかる。

参考図2:変異型プロフィリン1がTDP-43の細胞質内蓄積を誘起する機構の模式図

参考図

研究の展望

プロフィリン1はALSの原因となる変異によって凝集体を形成する。プロフィリン1凝集体は正常なTDP-43を補足し、病的なTDP-43が形成されやすくなる。病的なTDP-43は正常なTDP-43を病的なTDP-43に変換し、TDP-43の蓄積が進行する。

用語説明

※1 孤発性ALS:
ALS全体の約9割程度を占める。家系内に単発するALS。ほぼ全例で、呼吸不全あるいはそれに関連した肺炎が原因で死亡する。
※2 家族性ALS:
ALSのうち全体の約1割程度を占める。遺伝性を有することが多く、家系内に患者本人以外にもALSを発症した血縁者が存在する。
※3 TDP-43 (TAR DNA-binding protein of 43 kDa):
RNA結合タンパク質であり、RNAの代謝、輸送及び分解などに関与している。ALS及び前頭側頭葉変性症に出現する封入体の主要な構成成分として、2006年に同定された。
※4 異常プリオン:
プリオン病の原因タンパク質。正常プリオンとアミノ酸配列は同じであるが、立体構造が異なっており、不溶性で凝集しやすい。正常プリオンとの接触により、正常プリオンを異常プリオンに変換する。

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