2018年1月11日
「Psychiatry Clin Neurosci」に病院等連携研究センター センター長 糸川昌成、統合失調症プロジェクト 主席研究員 宮下光弘らが 「カルボニルストレスを伴う統合失調症を対象にしたピリドキサミン(ビタミンB6)の医師主導型治験」 について発表しました。
私たちはこれまでに、一部の統合失調症患者さんで“ペントシジン”という有害な終末糖化産物が蓄積すること(カルボニルストレス)を報告してまいりました。ペントシジンはピリドキサミン(3種類あるビタミンB6の1つ)で消去することができます。そこで、カルボニルストレスを伴う統合失調症患者さんにピリドキサミンを内服していただき、症状が改善するかどうか検証いたしました。
血液中のペントシジンが高い統合失調症の入院患者さん10名を対象に治験を行いました。患者さんには、1日に1200mg~2400mg(食事から摂取する量の約1000倍)という大量のピリドキサミンを24週間かけて内服していただきました。症状が改善したかどうか、 Positive and Negative Syndrome Scale (PANSS) や Brief Psychiatric Rating Scale (BPRS) を使用して評価しました。また、安全性を検証するため、薬剤性パーキンソン症状や自殺関連症状の評価も行いました。
10名中8名の患者さんでペントシジンが減少し、平均減少量は26.8%に達しました。精神症状は2名の患者さんで劇的に改善しました。GLO1酵素にフレームシフト変異を有する典型的なカルボニルストレスを伴う患者さんでは、ペントシジンの減少とともに精神症状が改善していきました。また、4名の患者さんでは、薬剤性パーキンソン症状が改善しました。自殺に関連する問題は生じませんでしたが、2名の患者さんでウェルニッケ脳症によく似た副作用が出現しました。いずれの患者さんも、チアミン(ビタミンB1)を速やかに補充することで完全に回復しました。
今回の治験によって、ピリドキサミンがカルボニルストレスを伴う統合失調症患者さんに効果があるかもしれないことが確認されました。今後は、プラセボを用いたランダム化比較試験で、本当にピリドキサミンが有効であるかどうか再検証することが必要です。