2018年12月4日
宮下知之主席研究員(学習記憶プロジェクト)が米国科学雑誌「Cell Reports」に「反復学習が記憶を蓄える神経細胞集団を形成するメカニズムを解明」について発表しました。
当研究所は、学習記憶プロジェクト 宮下 知之 主席研究員は、反復学習が、記憶を蓄える神経細胞集団を形成するメカニズムを明らかにしました。
この研究成果により、効率的な学習によって、学習の効果を上げ、記憶の定着を行うメカニズムを明らかにしただけでなく、記憶の定着ができないような記憶障害の治療に役に立つことが期待されます。
研究成果は、2018年12月4日午前11時(米国東部時間)に米国科学雑誌『Cell Reports』にオンライン掲載されました。
長期記憶は脳内の特定の神経細胞集団に蓄えられることが知られています。この神経細胞集団をエングラム細胞と呼びますが、このエングラム細胞が形成されるメカニズムは全くわかっていませんでした。著者らは、ショウジョウバエが、間隔をあけて反復学習を行うと長期記憶が形成され、間隔をあけないと長期記憶が形成されないことを利用し、エングラム細胞が形成されるメカニズムを明らかにしました。
間隔をあけた反復学習では、情報が入力された神経細胞内においてだけ、MAPK(注1)がCREB(注2)と呼ばれる転写因子を活性化し、c-fos(注3)を発現させます。また、c-fosも転写因子で、MAPKによって活性化し、CREBを発現させます。反復学習をくり返すことで、c-fosがCREBを、さらにCREBがc-fosを発現させるといった転写サイクルが形成され、CREBの発現量の高いエングラム細胞が形成されることが明らかになりました。
この結果は、効率的な学習によって、学習の効果を上げ、記憶の定着を行うメカニズムを明らかにしただけでなく、記憶の定着ができないような記憶障害の治療に役に立つことが期待されます。
間隔をあけた反復学習によって、くり返し情報が入力された神経細胞では、MAPKが活性化することで、CREBとc-fosの転写サイクルが形成される。転写サイクルが形成された神経細胞では、CREBの量が増加し、長期記憶が蓄えられたエングラム細胞になっていく。