東京都医学総合研究所のTopics(研究成果や受賞等)

HOMETopics 2018年

TOPICS 2018

2018年11月27日

当研究所の研究成果である「ファブリー病治療のための新規酵素(改変型NAGA)」の遺伝子治療薬開発をオランダuniQure社が開始しました。

当研究所の研究成果である 「ファブリー病治療のための新規酵素(改変型NAGA)」 の遺伝子治療薬開発をオランダuniQure社が開始

当研究所は、明治薬科大学等との共同研究の研究成果であるファブリー病(*1)治療のための新規酵素(改変型α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ、改変型NAGA(*2))のアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター(*3)による遺伝子治療薬開発のためのライセンス契約を、uniQure biopharma B.V.(*4)と本年5月に締結しました。その後、uniQure社では基礎的な検討を行っておりましたが、このたび良好な結果が得られたとのことで本格的な開発に着手することとなりました。

既存のファブリー病の治療法としては、組換えヒトα-ガラクトシダーゼA(GLA)の酵素補充療法(*5)等がありますが、酵素に対する抗体産生により免疫反応などの有害副反応などの報告もされています。改変型NAGAは、GLA酵素製剤の課題を解決するために、東京都臨床医学総合研究所(現在の東京都医学総合研究所)に所属していた櫻庭均(現 明治薬科大学)、田島陽一、川島育夫らが開発した改良酵素であり、α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ(NAGA)にGLA活性を持たせた酵素です。改変型NAGAは、GLAの活性を有しているにもかかわらず、タンパク質としての構造はNAGAの構造とほぼ変わりがないため、GLAが欠損しているファブリー病患者に投与しても免疫反応を生じ難いと考えられます。

また、遺伝子治療は酵素補充療法のように定期的に点滴静注をする必要がないなどのメリットがあります。しかし、一度、治療を開始すると容易にはその遺伝子の発現を止めることができません。そのため、酵素補充療法に用いる酵素製剤よりも安全性が高い酵素(その酵素の遺伝子)を用いる必要があります。今回、uniQure社が改変型NAGAをファブリー病の遺伝子治療薬のターゲット酵素にしたのは、その予想される安全性に着目したためです。

今後も、当研究所はuniQure社の開発の支援を行い、少しでも早くファブリー病患者の皆様に本治療薬をお届けし、ファブリー病患者の皆様の回復とQOLの向上のために貢献して参ります。

用語説明

*1 : ファブリー病
ファブリー病は、ライソゾームの中にあるGLAが欠損あるいは機能不全になり、グロボトリアオシルセラミド(Gb3)などの糖脂質が体内に異常に蓄積することにより発症する遺伝病で、厚生労働省による指定難病のひとつです。日本における正確な発生頻度は不明ですが、新生児ハイリスクスクリーニングの結果から8,000-9,000人に1人程度と推測されています。症状としては、四肢の痛み、腎障害や心障害などを引き起こします。
*2 : 改変型NAGA(α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ)
GLAと類似の構造を有するα-N-アセチルガラクトサミニダーゼ(NAGA)の活性部位の2アミノ酸を置換することにより、NAGAにGLA活性を持たせた改変酵素です。その分子構造はNAGAとほぼ変わらないため、GLAが欠損してもNAGAを有するファブリー病患者さんに投与した場合、免疫反応を起し難いと期待されます。
改変型NAGAの物質特許(遺伝子特許も含む)は、当研究所とアルティフ・ラボラトリーズが有しています。
<論文情報>
Use of a Modified α-N-Acetylgalactosaminidase in the Development of Enzyme Replacement Therapy for Fabry Disease,「ファブリー病の酵素補充療法における改変型α-N-アセチルガラクトサミニダーゼの使用」
Youichi Tajima, Ikuo Kawashima1, Hitoshi Sakuraba, et al.,Am J Hum Genet, 85(5):569-580, 2009
<特許情報>
「基質特異性を変換した新規高機能酵素」(PCT/JP2006/323509)、出願人:東京都医学総合研究所、アルティフ・ラボラトリーズ
「酵素補充療法用医薬組成物」(PCT/JP2008/59604)、出願人:東京都医学総合研究所、アルティフ・ラボラトリーズ
*3 : アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター
AAVは、分裂細胞及び非分裂細胞のいずれにも感染できる能力があり、遺伝子を様々な細胞に運ぶことができます。また、導入された目的の遺伝子が長期にわたり発現されます。近年、これらの特徴を生かし、AAVベクターは遺伝子治療用のベクター(遺伝子の運搬体)として用いられることが増えています。
*4 : uniQure biopharma B.V.
オランダに本社を置く遺伝子治療薬のメーカーで、欧州ではじめて遺伝子治療薬の製造販売承認を受けました。AAV由来のベクターを用いた遺伝子治療法の開発を行っていて、業界をリードする生産能力も有しています。
*5 : 酵素補充療法
特定の酵素が先天的に欠損あるいは機能不全となっている遺伝病患者に対して、正常な組換え酵素を体外から投与して、症状を改善する治療法です。

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