2023年9月4日
心の健康ユニットの山口智史研究員と宮下光弘副参事研究員らは、「思春期の子どもの相談意欲と抑うつ症状との縦断的関係」について、国際学術誌 Journal of Adolescent Health に発表しました。
心の健康ユニットの山口智史研究員と宮下光弘副参事研究員らは大規模思春期コホートである東京ティーンコホートのデータを解析し、思春期の子どもでは「心が不調になると相談したい気持ちが弱くなること」を発見しました。この結果は、周囲の大人が普段から子どもと積極的にコミュニケーションをとることで、大人が「自然と」子どもの不調に気づき、子どもも「自然と」大人に相談したくなるような信頼関係を築いておくことの大切さを示しています。
この研究成果は、2023年9月4日(月曜日)(米国東部標準時)に国際学術誌『Journal of Adolescent Health』(電子版)に掲載されました。
思春期の子どもの約4人に1人は、悲しい気持ちになる、何をしても楽しくない、などのうつ症状を抱えている可能性があります。しかし、現状ではうつ症状を抱える多くの子どもが心のケアを受けていません。そのため、「うつ症状で本当に困ったときに、子どもは相談ができるのか」ということが懸念されてきました。これまでに横断研究1)によって、うつ症状と相談したい気持ちは関連することが報告されていますが、うつ症状の悪化が原因で相談したい気持ちが弱くなってしまうのか、ということは明らかにされていませんでした。そこで、本研究では、大規模思春期コホート研究2) によって、子どものうつ症状が悪化すると相談したい気持ちが弱くなるのか、という仮説を検証しました。
私たちは、東京ティーンコホートという大規模思春期コホート研究を行っています。今回、思春期の子どものうつ症状と相談したい気持ちを、2年おきに4回調査しました(10歳、12歳、14歳、16歳)。このデータをランダム切片交差遅延パネルモデル3)と呼ばれる最新の統計手法により解析した結果、全ての調査時期の間(10歳→12歳、12歳→14歳、14歳→16歳)で、「うつ症状が悪化すると、相談したい気持ちが弱くなること」を明らかにしました(図参照)。
本研究は、「うつ症状が悪化すると、相談したい気持ちが弱くなること」 を世界で初めて報告しました。学校現場では、「困ったら相談すること」 という子どもへの教育指針が示される一方で、その内容には、「相談を軽くあしらわれるといった対応をされることがあるため、あきらめずに別の大人に相談する」 という対応方法も含まれています。しかし、今回の研究結果は、「うつ症状が悪化すると、相談したい気持ちが弱くなってしまい、相談できない可能性が高くなること」を示しています。したがって、相談したい気持ちが弱くなっているときのSOSの出し方として、「困ったら相談しましょう。でも、軽くあしらわれることもあるので複数の大人に相談しましょう」 という教育指針は望ましくありません。それよりも、まず周囲の大人が普段から子どもと積極的にコミュニケーションをとることで、大人が「自然と」子どもの不調に気づき、子どもも「自然と」大人に相談したくなるような信頼関係を築いておくことがとても重要です。
本研究は、学術変革領域(A)『「当事者化」人間行動科学:相互作用する個体脳と世界の法則性と物語性の理解』(21H05171, 21H05173, 21H05174, 22H05211)、東京大学ニューロインテリジェンス国際研究機構(IRCN)、東京大学心の多様性と適応の連携研究機構 (UTIDAHM)、東京大学国際高等研究所(UTIAS)、JST未来社会創造事業補助金 JST-Mirai Program (JPMJMI21J3) 、JST Moonshot R&D (JPMJMS2021)、日本医療研究開発機構 (AMED; JP19dm0207069, JP18dm0307001 & JP18dm0307004)、文部科学省研究費補助金 JSPS KAKENHI (19K17055, 19H00972, 20H01777, 20H03951, 20H03596, 21K10487, 23H02834)の支援を受けて行われました。