2023年12月27日
細胞膜研究グループ⼩松⾕啓介研究員と笠原浩二主席研究員らは「界面活性剤不溶性膜ラフトの血小板活性化に伴う一過性の密度増加」についてBiomedicines に発表しました。
細胞膜研究グループでは、これまでに血液が凝固し、強固な血栓をつくるために必要な血餅退縮が起こるためには血小板の細胞膜ミクロドメインである脂質ラフトが重要な役割をもっていることを報告してきた(Kasahara et al.)。脂質ラフトを生きた細胞膜上で検出する方法は一分子追跡法など特殊な解析法に限られ、通常はショ糖密度勾配遠心法により界面活性剤不溶性のバンドとして精製される画分が、脂質ラフトであると考えられている。実際に血餅退縮を起こしているときに血小板から界面活性剤不溶性のバンドを単離し分析したところ、血餅退縮を起こすのに必要なフィブリン線維とその受容体であるインテグリンαIIbβ3が集積していることが分かった。よって血小板が活性化するときに脂質ラフト画分である界面活性剤不溶性バンドを分析することは血液凝固機構を探る上で有用であると考えられる。
血小板をトロンビンで活性化して脂質ラフトを解析したところ、血餅退縮を起こす時間内で界面活性剤不溶性ラフト画分のバンドの密度が一過性に高くなることを見出した(図1)。インテグリンαIIbβ3欠損症である血小板無力症患者の血小板では、血餅退縮は起こらず、バンドの密度変化も見られなかった(図2)。また、その変化の機構を調べるために界面活性剤不溶性ラフト画の構成成分を分析したところ、血餅退縮に必要なフィブリン(図3)やミオシンが一過性に結合すること、また構成脂質であるフォスファチジルセリンPSの分子種が変化することを見出した(図4)。脂質ラフト画分でPS(36:1)が増加し、PS(38:4)が減少した。逆に非ラフト画分ではPS(38:4)が増加した。この変化は血小板全部のライセートでは見られず、脂質ラフトを精製することで初めて検出することができた。血小板が活性化すると脂質二重層の内側に局在するPSが外側に出てくることが知られているが、その膜における分布が脂質ラフト画分と非ラフト画分で異なることを示している。
Kasahara K. et al. Clot retraction is mediated by factor XIII-dependent fibrin-αIIbβ3-myosin axis in platelet sphingomyelin-rich membrane rafts. Blood 122, 3340-3348, 2013