2024年1月26日
社会健康医学研究センターの西田淳志センター長、東京大学の宇野晃人大学院生(医学博士課程)らの研究グループは、「引きこもり症状の持続と身体不調の増加は思春期の希死念慮リスクと関係」について JAMA Network Openに発表しました。
東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻臨床神経精神医学講座の宇野晃人大学院生(医学博士課程)、安藤俊太郎准教授、笠井清登教授(同大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)主任研究者)、同大学大学院教育学研究科教育心理学講座の宇佐美慧准教授、当研究所社会健康医学研究センターの西田淳志センター長らの研究グループは、一般の思春期児童2,780人のさまざまな精神症状の経時変化を網羅的に分析し、思春期児童の精神症状のなかでも持続する引きこもり症状と増悪する身体不調の希死念慮リスクが高いことを見出しました(図1)。思春期の精神症状の自殺リスクは経時変化のパターン(持続、増加、減少、など)によって異なることがわかっていますが、過去の研究ではそれぞれ一種類の症状の経時変化しか検討されていませんでした。本研究はさまざまな精神症状の経時変化のパターンを同時に分析することで、他の症状の影響を考慮した上でそれぞれの症状の希死念慮リスクを評価した初めての研究です。本研究の知見から、さまざまな精神症状のなかでも、持続する引きこもり症状と増悪する身体不調が思春期の自殺予防のために重要であることが示唆されます。地域生活のなかで思春期児童と関わる幅広い人々がこれらの症状の自殺リスクに注意を払い、自殺予防のための支援につなげていくきっかけになることが期待されます。
なお、本研究は米国医学雑誌「JAMA Network Open」(オンライン版:米国東部標準時1月25日)に掲載されました。
思春期のこころの健康が世界的に推進されているにもかかわらず、自殺は依然として思春期で最も多い死因の一つです。思春期の自殺の大きなリスクである精神症状は、経時変化のパターン(持続、増加、減少など)によってリスクの大きさが異なることがわかっています。心身が大きく変化する思春期ではいくつかの種類の精神症状が同時に存在することも珍しくありませんが、過去の研究ではそれぞれ一種類の症状の経時変化しか分析されていないため、同時に存在するさまざまな症状のなかで特にどの症状が重要なのかが不明なままでした。
そこで本研究では思春期のさまざまな精神症状を網羅的に扱い、各症状の経時変化のパターンによってクラスタリング(注1)したうえで希死念慮(注2)との関係を調べました。
対象としたのは、思春期の発達について幅広く追跡している東京ティーンコホート研究(注3)で10歳時、12歳時、16歳時の調査において少なくとも2回以上精神症状を評価された2,780人の一般の思春期児童です。8種類の精神症状(引きこもり症状、身体不調、不安抑うつ症状、社会性の問題、思考の問題、注意の問題、非行的行動、攻撃的行動)を養育者に対するアンケート調査で評価しました。希死念慮は16歳時に本人に対する質問票で評価しました。
さまざまな精神症状に対するクラスタリングによって、経時変化のパターンが異なるグループを見つけました。その結果は症状の種類ごとに異なっていました(図2)。これら症状のグループを同時に考慮して分析すると、「持続する引きこもり症状」(14.1%)と「増加する身体不調(注4)」(8.4%)の2グループだけが希死念慮と関係していました。また、「持続する引きこもり症状」、「増加する身体不調」と希死念慮の関係はそれぞれ独立したものであることもわかりました。
思春期の自殺予防は重要な社会的課題です。さまざまな精神症状のなかでも、持続する引きこもり症状と増悪する身体不調が思春期の自殺予防のために重要であることが示唆されました。引きこもり症状や身体不調は、不安抑うつ症状などと比べれば周囲から見つけやすい症状です。思春期児童と関わる幅広い人々が、これらの症状の自殺リスクに注意を払い、自殺予防のための支援につなげていくきっかけになることが期待されます。
本研究は、「個体脳ー世界相互作用ループの時代・世代・ジェンダー影響の解明(課題番号:21H05174)」等の文部科学省科研費KAKENHI(課題番号:20H01777、20H03951、21H05171、21K10487、22H05211、23K07028、23H02834)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)(課題番号:JP19dm0207069、JP18dm0307001、JP18dm0307004)、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)ムーンショット型研究開発事業(課題番号:JPMJMS2021)、JST未来社会創造事業(課題番号:JPMJMI21J3)の支援により実施されました。