2024年3月20日
統合失調症プロジェクトの田畑光一非常勤研究員と新井誠プロジェクトリーダーらは、「統合失調症ではホモシステインが大脳白質の微細な構造異常に関連する」について Schizophrenia に発表しました。
統合失調症プロジェクトの田畑光一非常勤研究員、新井誠プロジェクトリーダーらは、京都大学医学部附属病院精神科神経科の孫樹洛 研究員、村井俊哉 教授と共同で、統合失調症患者では血漿のホモシステイン濃度が大脳白質の微細な構造異常に関連することを明らかにしました。
この研究成果は、2024年3月20日に『Schizophrenina』誌にオンライン掲載されました。
近年、血漿ホモシステイン濃度の増加が統合失調症の発症リスクや重症度に関連することが報告されています。また、動物や細胞を用いた基礎研究では、ホモシステインは酸化ストレスや炎症を促進して大脳白質を障害することが分かっています。他方、MRI拡散強調画像を用いた大規模な解析により、統合失調症患者における大脳白質の微細な構造異常が報告されています。しかしながら、統合失調症患者の血漿ホモシステイン濃度と大脳白質の微細構造の関連については分かっていませんでした。
本研究では、京都大学精神科神経科と共同で、統合失調症患者53名、健常者83名を対象に研究を行いました。採血にて血漿ホモシステイン濃度を測定し、同日にMRIの撮像とPANSS (用語4)による症状評価を行いました。MRI拡散強調画像を用いたTBSS解析 (用語5)により、健常者群と比べて患者群でFA値が有意に低下している脳領域の探索を行いました。
解析の結果、患者群では大脳白質の広範囲でFA値が有意に低下しており、この結果は先行研究と一致していました (図1)。
次に、患者群と健常者群でFA値が有意に異なった脳領域の平均FA値を算出し、この値が血漿ホモシステイン濃度と関連するかどうか解析を行いました。解析の結果、患者群では、血漿ホモシステイン濃度の増加が平均FA値の低下に有意に関連していました。一方、健常者群ではこのような関連がみられませんでした (図2)。また、患者群で血漿ホモシステイン濃度とPANSSスコアとの関連を解析したところ、総合スコア、下位尺度の一つである総合精神病理尺度スコアと有意な正の相関がみられ、この結果は先行研究と一致していました。
本研究は、統合失調症患者では血漿ホモシステイン濃度の増加がFA値の低下に関連することを世界で初めて報告しました。健常者ではこの関連がみられなかったことから、統合失調症ではホモシステインが大脳白質の微細な構造異常に関与しており、このことが病態生理メカニズムの一つである可能性が示唆されました。高ホモシステイン血症の治療薬であるベタインが統合失調症症状を実際に改善したという報告もあり、今回の発見は、既存の向精神薬とは異なる作用機序を持つ新たな治療薬の開発に寄与すると考えています。
今回の研究では、あくまで一時点での統合失調症の血漿ホモシステイン濃度と大脳白質の微細構造との関連を示しました。今後は縦断的な研究を行うことにより、血漿ホモシステイン濃度の増加が大脳白質の構造異常を実際に引き起こし、それが統合失調症の発症や臨床的転帰に関与するかどうか等、より詳細な検討を行う必要があります。