2024年9月11日
認知症プロジェクトの長谷川成人プロジェクトリーダー、野中隆副参事研究員、分子病理・ヒストロジー解析室の河上緒副参事研究員らは、「C型FTLD-TDPにおけるANXA11とTDP-43のヘテロ型アミロイド線維」について Nature に発表しました。
当研究所 認知症プロジェクトの長谷川成人プロジェクトリーダー、野中隆副参事研究員、分子病理・ヒストロジー解析室の河上緒副参事研究員らは、MRC分子生物学研究所のBenjamin Ryskeldi-Falcon研究グループと共同研究を行い、C型FTLD-TDP患者脳から線維を調製、クライオ電顕解析を実施し、ANXA11とTDP-43のヘテロ型アミロイド線維構造を明らかにしました。
本研究成果は、2024年9月11日に「Nature」オンライン版に発表されました。
神経変性疾患は、脳内にアミロイド線維が蓄積することで特徴づけられる。これらの線維は、特定のタンパク質が疾患によって多様な構造をとり、神経変性を引き起こす原因的役割をもつ。したがって、新しい診断・治療法を開発するためには、線維形成の構造的、分子的、細胞的メカニズムに関する包括的な知識を持つことが不可欠である。クライオ電子顕微鏡(クライオ電顕)を用いて、これまでにいくつかの疾患の線維の構造が決定されているが、それらはすべて単一タンパク質の自己組織化によって特徴づけられるホモメリックなアミロイド線維であった。今回、LMB NeurobiologyのBenjamin Ryskeldi-Falcon研究グループは、C型のTDP-43病態を伴う前頭側頭葉変性症(FTLD-TDP type C)の神経変性疾患患者の脳から線維の構造を決定し、2つのコアタンパク質を持つヘテロマー構造を初めて明らかにした。
C型FTLD-TDP患者4人の脳から線維を分離した後、筆頭著者のDiana Arseniはクライオ電顕を用いてその構造を決定した。構造が高分解能であったため、線維の構成タンパク質を直接同定することができた(上図参照)。その結果、TDP-43と共集合してヘテロマーのアミロイド線維を形成する第二のタンパク質、アネキシンA11(ANXA11)が予想外に発見された。この発見以前には、ANXA11が神経変性疾患においてアミロイド線維を形成することは知られておらず、FTLD-TDP type Cにおいて役割を果たしていることも知られていなかった。
この研究は、タウ、TDP-43、α-シヌクレイン、TAF15、アミロイドβと並んで、疾患関連アミロイド線維を形成することが知られているタンパク質の小さなグループにANXA11を加えるものである。ヒトの脳におけるヘテロメリックなアミロイド線維形成の前例のない証拠は、アミロイド集合体の理解に関して全く新しい探求の道を提示し、神経変性疾患の病因に重要であることを証明するかもしれない。最後に、この研究は、孤発性の前頭側頭型認知症の最も一般的な原因のひとつであるFTLD-TDP type Cの背後にある構造を明らかにすることで、前頭側頭型認知症に関する新たな知見を提供するものである。このタイプのFTLDの分子病態を明らかにすることにより、本研究は、将来、新しい診断・治療手段を開発するためのターゲットを特定するものである。
本研究は、UKRI MRC、Hans Und Ilse Breuer Stiftung、米国国立衛生研究所、日本医療研究開発機構、科学技術振興機構、日本学術振興会、東京都健康長寿医療センター研究所、Leverhulme Trustより助成を受けた。