VCPのD395G変異で発症した空胞型タウオパチーのタウ線維は
慢性外傷性脳症型の折りたたみ構造をとる

脳・神経科学研究分野の長谷川成人プロジェクトリーダーらは、山形大学の小林良太准教授、福島県立医大の川勝忍教授、MRC分子生物学研究所のMichel GoedertグループリーダーとSjors Scheresグループリーダーらと共同研究を行い、VCP遺伝子D395G変異で発症した空胞型タウオパチー患者脳からタウ線維を調製、クライオ電顕解析を実施し、慢性外傷性脳症(CTE)型の折りたたみ構造をとることを明らかにしました。

本研究成果は、2024年5月17日に神経病理学雑誌「Acta Neuropathologica 」オンライン版に発表されました。

＜論文タイトル＞

“Tau filaments with the chronic traumatic encephalopathy fold in a case of vacuolar tauopathy with VCP mutation D395G”

＜著者＞

Chao Qi, Ryota Kobayashi, Shinobu Kawakatsu, Fuyuki Kametani, Sjors H. W. Scheres, Michel Goedert & Masato Hasegawa

＜発表雑誌＞

Acta Neuropathologica
DOI：10.1007/s00401-024-02741-x.
URL：https://link.springer.com/article/10.1007/s00401-024-02741-x

背景及び成果

バロシン含有タンパク質 (VCP) をコードする遺伝子の優性遺伝変異 D395Gが、ギリシャ、米国、日本の3家族において、遺伝性の行動障害型前頭側頭型認知症 (bvFTD) の原因であると報告されている。 組織学とイムノブロッティングにより、ギリシャと米国の家系では、6種類のタウアイソフォームからなる多量のタウ封入体と空胞変性が確認されており、この状態は空胞タウオパチーと命名されている。

これまで、MAPT(タウ遺伝子) 以外の変異によってタウが蓄積する疾患として、アルツハイマー病 (AD) (APP およびプレセニリン遺伝子)、英国およびデンマークの家族性認知症 (BRI 遺伝子)、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー病 (プリオンタンパク質遺伝子) の症例が含まれる。 これらの疾患では、さまざまなタンパク質（Aβ、BRI、およびプリオンタンパク質）の細胞外蓄積が、神経細胞内のタウ蓄積に加えて観察される。 低温電子顕微鏡法 (クライオ電顕)解析により、これらの疾患では、アルツハイマー型タウ構造をとって蓄積することが示されている。また、細胞外蓄積のない原発性加齢関連タウオパチー (PART)でもAD型タウの蓄積が示されている。つまり、年齢に応じてほとんどの人に形成されるタウ病変にはAD型の構造がある。

これまでクライオ電顕により、6つのタウアイソフォームからなるタウ線維は、AD型とCTE型の2つに分類される。CTE型は、亜急性硬化性全脳炎（SSPE）および筋萎縮性側索硬化症/パーキンソン病-認知症複合体（ALS/PDC）にも見られる。CTE型タウの構造は、新皮質のII/III層に多量のタウ病変を伴う疾患に認められ、大部分がタウのリピート3と4 、そしてリピート4後の10～13アミノ酸で構成される。

今回私達は、VCP 遺伝子のD395G変異を持つ患者から採取したタウ線維の神経病理を報告し、クライオ電験解析によってその構造を決定した。症例は18年間にわたって人格変化と認知障害を患い、63歳で亡くなった男性で、タウ病変は新皮質のII/III層に最も多く認められた。 空胞化は、タウ病変がほとんどない脳領域で主に観察された。クライオ電顕により、タウの折りたたみは CTE、SSPE、ALS/PDC の折りたたみ構造と同一であった。 これは、CTE型の折りたたみ構造を伴う最初の遺伝性タウオパチーである。

本研究は、UKRI MRC、日本学術振興会（JSPS）から資金提供を受けて実施しました。

参考文献

https://link.springer.com/article/10.1007/s00401-024-02741-x