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結節性硬化症のてんかん発症に関わる新たなメカニズムの発見
~細胞外カルシウム流入の増大の関与~

カルパインプロジェクト 主席研究員久恒 智博

結節性硬化症(tuberous sclerosis complex:TSC)は全身の過誤腫(良性の腫瘍)を特徴とする難病です。症状の一つに、てんかん(脳神経細胞の過剰な同期的活動による発作)、知的障害、自閉症などの神経症状があります。なかでもてんかんは、患者の生活の質や知的障害の程度にも深く関わる大きな問題となっています。しかし、TSCのてんかんの発症メカニズムはほとんど明らかになっていません。

今回我々は、TSC2 遺伝子を無くしたヒトiPS細胞を作製して脳神経細胞へ分化させ、その性質を培養下で調べました。その結果、正常型の神経細胞に比べてTSC2 遺伝子を欠損した神経細胞は多くの細胞が同期して過剰に活動することがわかりました(図)。さらにTSC2 を欠損した神経細胞では興奮性に関わるカルシウムチャネルの発現量が増え、細胞外から細胞内へのカルシウムイオンの流入が増加すること、またその結果、神経の伝達効率に関わる転写因子の活性や神経軸索の伸長に影響を与えることを発見しました。これらの一連の現象が神経ネットワークレベルの異常を引き起こしてTSCのてんかんを起こしていることが推測され、今後カルシウムチャネルを標的とした新たな治療薬の開発に繋がるものと期待されます。

図 正常型とTSC2欠損型の神経細胞の活動の違い

図 正常型とTSC2欠損型の神経細胞の活動の違い

正常な神経細胞では一部の細胞が活動しているのに対し、TSC2を欠損した神経細胞では多くの細胞が同期して一斉に活動する。活動した神経細胞を擬似カラーで示してある。

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