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高グルコース環境下における外因性ピルビン酸の機能

糖尿病性神経障害プロジェクト 主任研究員八子 英司

我が国の糖尿病患者とその予備軍は約2,000万人と推定されています。糖尿病の慢性合併症として、末梢神経障害、網膜症、腎症が知られておりますが、神経障害は最も早期から出現し、病期の進行により足切断や致死性不整脈などを引き起こします。

ピルビン酸はエネルギー産生に重要な代謝産物ですが、糖尿病患者では血中ピルビン酸濃度が減少していることが報告されています。糖尿病モデル動物にピルビン酸を投与すると、網膜症や腎症が改善するとの報告がありますが、神経障害に関する有用性は分かっていません。我々は末梢神経を構成するシュワン細胞や感覚ニューロンを「ピルビン酸を含まない高グルコース培養液」に暴露すると、短時間で細胞死が誘導されることを見出しました。この細胞死は、ミトコンドリアでのエネルギー産生量の低下、解糖系速度の低下とポリオール代謝経路などの解糖系側副路の亢進などによることが示唆されました (図)。すなわち、外因性ピルビン酸は高グルコース環境下においてシュワン細胞やニューロンのエネルギー産生を維持し、細胞死を防いでいるものと推察されます。現在、糖尿病モデル動物を用いて神経障害に対するピルビン酸の有用性を解析しており、糖尿病性神経障害の病態解明と新規治療薬の開発につなげたいと考えています。

図 高グルコース・外因性ピルビン酸欠乏負荷による細胞死の概略

図 高グルコース・外因性ピルビン酸欠乏負荷による細胞死の概略

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