2017年2月4日
米国科学誌「PLOS One」に芝崎太参事研究員らが「子宮頸がんワクチン投与後の簡易な血中抗体価測定法の開発に成功」について発表しました。
東京都の特別研究の一環として、(公財)東京都医学総合研究所・芝崎 太 参事研究員らは、子宮頸がんワクチン接種後に血液中で上昇するパピローマウイルス16型、18型に対する血中抗体価※1を、血液1滴以下を用いて15分以内で測定できる簡易イムノクロマトキット開発に成功しましたのでご報告致します。
子宮頸がんは、子宮頸部にできるがんで、年間約1万人以上が罹患し、約3,000人の患者さんが亡くなります。このがんの発症にはヒトパピローマウイルス(HPV)と呼ばれるウイルスが関わっており、80%以上の患者さんでこのウイルスが検出されます。子宮頸がん予防ワクチンを接種することで、ヒトパピローマウイルスの感染を防ぐことを目的に,日本では2009年にサーバリックス(Cervarix)、2011年にはガーダシル(Gardasil)が製造承認を受け,14歳から16歳の女子を中心に接種が始まり、国内では338万人以上、世界では1億人以上が接種を受けています。生憎にも日本では約2,500人(0.08%)の方に有害事象が起こったと疑義が持たれ、現在、国を挙げてその因果関係を調査しています。
これまで実施された研究成果から、ワクチンを3回接種することにより少なくとも約8年間は子宮頸がんの発症予防効果があることが実証され、さらに20年間は高い抗体価が維持されると推定されています。 本キットは、指先から採血した一滴以下の血液で測定可能なため、将来的にはクリニック等でも抗体価のチェックが簡便に行える利点が期待できます。
なお、本キットの開発は、東京バイオマーカー・イノベーション技術研究組合(TOBIRA、理事長:松田浩珍)の組合員であるシンセラ・テクノロジーズ株式会社(代表取締役 渡辺一平)、アドテック株式会社(代表取締役:渡辺幹雄)、および臨床共同研究施設として三重大学・婦人科(池田智明教授)、がん感染症センター都立駒込病院・小児科(現埼玉県立がんセンター・川村眞智子医師)、そして女性と心のクリニック(安藤義将院長)との産官学医連携体制を通して実施されました。
この研究成果は、米国科学雑誌「POLS One(プロスワン)」の2月3日(米国東部時間14時)付オンライン版で発表されました。
http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0171314
子宮頸がんは、子宮癌の約7割を占め、30代後半の年代をピークとし、年間約1万人の方が罹患し、約3,000人の患者さんが亡くなるがんです。最近では20~30代の女性にも増えてきており、少子化が社会問題化している昨今、子宮頸がんの発症予防や治療が喫緊の課題となっています。
ヒトパピローマウイルス(HPV)は、子宮頸部に病理的な所見がない女性でも10~20%、海外では性行為を経験した女性の50~80%がHPVに感染すると報告されています。幸いにも、このウイルスが感染しても90%以上のケースでは2年以内にウイルスは自然排出されると考えられているものの、残りの10%程度では自然に排出されず、数年から数十年に渡って持続感染し、子宮頸がんに進展すると報告されています。
子宮頸がんはHPVが主たる原因であるため、HPVに対するワクチンを接種することによって発症を予防できる可能性が海外の研究から報告されました。
HPVには100種類以上の亜型が存在しますが、16型、18型による感染が60%を占め、この2つの亜型に対するワクチンが、本邦では2009年、2011年にそれぞれサーバリックス(Cervarix:16型、18型の2価ワクチン)、ガーダシル(Gardasil:16,18,6,11型の4価ワクチン)が製造販売認可を受け、延べ330万人以上の日本人女性に接種されました。対象は14~16歳を中心に筋肉内に3回接種されています。このワクチンを接種すると、各HPVの亜型に対する血液中の抗体が産生され、子宮頚部でHPVの感染を防ぐことが報告されていますが、作用機序の詳細は、いまだ明らかになっておりません。なお、約8年間は子宮頸がんの発症予防効果を有することが実証され、20年間は高い抗体価*1が維持される製薬会社の研究では推定されています。
しかしながら,本邦では、約2,500人(0.08%)の方に「副作用の疑いがあり」と判断されたため国家を挙げてその原因調査を開始しましたが、目下のところ、厚労省もワクチン接種に関しては推奨することを控えています。
平成20年より東京都はインフルエンザやがんに関し、診断法や治療薬の研究開発を積極的に推進してきました。この度、(公財)東京都医学総合研究所の芝崎 太研究員らは、東京バイオマーカー・イノベーション技術研究組合(TOBIRA)の組合員である大学、企業ならびに都立病院などとの産学医連携体制を通し、イムノクロマト法を用い、血液一滴以下というごく微量の血液サンプルを用いて、採血後15分以内にHPV16型、18型に対する血中抗体価を測定できるキットを開発することに成功しました。
本キットは、従来の金コロイド*2を使用する方法とは異なり、測定原理として二次抗体による酵素反応を用いて血液中の抗体を検出するため、抗体価を高感度に測定することが可能になりました。さらに、血液サンプル量がごく微量でも測定可能ですので利便性にも長けています。
なお、本キット判定は、200名以上のワクチン接種者の協力を得て、三重大学、がん感染症センター都立駒込病院、女性と心のクリニックなどの医療機関で実施されました。判定は目視により8段階で実施され、従来のELISA法*3と相関することも示されました。さらに、16型と18型の亜型に対する抗体価も個別に測定することが可能であり、有効血中抗体価が持続しているかどうかの判定にも有用であると考えられています。
今回開発したキットは、摂取したワクチンの持続効果について血中抗体価を指標として定量的に測定することが可能なため、国家でのサーベイランスだけではなく、クリニックや個人でも、無痛針によるごく微量血液を用いて測定が可能です。さらに、接種後5年以上経った時点でも抗体価を指標としてワクチン効果判定等にも使用できる可能性があります。本キットはH29年度中に検査キットとして国内外で上市することを予定しています。