2022年12月21日
西田淳志 社会健康医学研究センター長らは、国立国際医療研究センター等と共同で「思春期の孤独感は、後の自殺関連問題と関連する-予防にはいじめ対策と親のメンタルヘルス支援が重要-」についてChild and Adolescent Psychiatry and Mental Health に発表しました。
2002年から2004年の間に生まれた都内の一般思春期集団3165名を対象に、10歳から16歳までの孤独感の経過パターンを同定し、その予測要因や自殺関連事象との関連を検討しました。
その結果、
いじめや養育者のメンタルヘルスの問題が、児の持続する孤独感や増大する孤独感を予測することから、いじめ対策や養育者のメンタルヘルス支援が、思春期世代の孤独感を緩和するうえで重要である可能性が示唆されます。
近年、孤独感が心身の健康に悪影響を及ぼす可能性が報告されています。思春期はライフコース(生涯)の中でも孤独感を感じやすい時期であるにもかかわらず、思春期世代の孤独感の経過やその予測要因、予後(自殺関連事象)との関連について多くはわかっておらず、特に本邦の思春期世代におけるエビデンスは極めて限られています。
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター(略称:NCGM)の国際医療協力局グローバルヘルス政策研究センターの細澤麻里子主任研究員、公益財団法人 東京都医学総合研究所の社会健康医学研究センター西田淳志センター長、東京大学大学院医学系研究科 脳神経医学専攻臨床神経精神医学講座笠井清登教授らの研究グループは、東京近郊の思春期児童を縦断調査している東京ティーンコホート(注1)のデータを利用し、2002年から2004年の間に生まれた一般思春期集団3165名を対象に孤独感に関する質問紙評価を繰り返し行い、10歳から16歳までの孤独感の経過別の予測要因、および、16歳までの自殺関連事象(自傷行為と自殺念慮の経験)との関連を分析しました。
思春期の孤独感は、その経過パターンにより4群に分類されました(図1)。多くの児(n=2448, 77%)は思春期を通して孤独感が低い群に分類されましたが、少数(n=24, 0.8%)ながら持続的に孤独感を感じている群、そして10歳時点で中程度の孤独感を感じ、年齢とともに孤独感が軽減(n=185, 6%)または増大(n=508, 16%)する群がありました。
子どもの性別、出自、健康状態、家族構成や家庭の社会経済状況などの予測要因のうち、10歳時にいじめられた経験があること、および養育者の心理的負荷が高いことが、持続的に孤独感を感じている群や孤独感が増大した群の主な予測要因でした。
持続的に孤独感を感じている群は、孤独感が低い群と比べて、16歳までの自傷行為のリスクが約6.0倍(95%CI 4.4-8.2)、自殺念慮を抱くリスクが約2.5倍(95%CI 1.8-3.4)高いことが明らかとなりました。また、10歳時点で中程度の孤独感を感じていた二群についても自傷行為や自殺念慮のリスクが約2~3倍高いことが明らかとなりました。
日本の一般思春期集団の検討を通して、思春期前期(10歳頃)のいじめ対策や養育者のメンタルヘルスを支援することが思春期を通した孤独感の軽減、ひいてはその後の自殺関連事象の軽減につながる可能性が示唆されました。本研究の成果は2022年12月21日にChild and Adolescent Psychiatry and Mental Health(電子版)に掲載されました。