東京都医学総合研究所のTopics(研究成果や受賞等)

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2022年3月28日
認知症プロジェクトの長谷川成人プロジェクトリーダー、樽谷愛理客員研究員らは、英国MRC Laboratory of Molecular BiologyのMichel Goedert, Sjors Scheresグループリーダーらとの共同研究により「ヒト脳で年齢依存的に形成されるTMEM106Bアミロイド線維」について英国科学雑誌「Nature」に発表しました。

ヒト脳でアミロイド線維を形成する新しいタンパク質の構造を低温電子顕微鏡で解明

当研究所認知症プロジェクトの長谷川成人プロジェクトリーダー、樽谷愛理客員研究員らは、英国MRC Laboratory of Molecular BiologyのMichel Goedert, Sjors Scheresグループリーダーらとの共同研究により、「ヒト脳で年齢依存的に形成されるTMEM106Bアミロイド線維」について、2022年3月28日に英国科学雑誌「Nature」に発表しました。

<論文名>
“Age-dependent formation of TMEM106B amyloid filaments in human brains”
「ヒト脳におけるTMEM106Bアミロイド線維の年齢依存的形成」
<発表雑誌>
英国科学雑誌「Nature」
DOI:https://doi.org/10.1038/s41586-022-04650-z
URL:https://www.nature.com/articles/s41586-022-04650-z
※こちらもご覧ください。
https://www2.mrc-lmb.cam.ac.uk/tmem106b-filaments-form-in-an-age-dependent-manner-in-human-brains/

タウ、アミロイドβ、αシヌクレイン、TDP-43など、様々なタンパク質が線維状に凝集することは、多くの神経変性疾患の特徴です。Sjors ScheresとMichel Goedertの研究グループは、これらのタンパク質に関するこれまでの共同研究を基に、今回、ヒトの脳でアミロイド線維を形成する新たなタンパク質としてTMEM106Bを同定しました。研究チームは、様々な神経変性疾患の22人の脳を調べたところ、リソゾーム膜貫通タンパク質TMEM106Bの膜内ドメインからなるアミロイド線維を発見しました。興味深いことにTMEM106B線維は3つの異なる折り畳み構造をとっていましたが、病気との明確な関係は見られませんでした。これは多くの神経変性疾患において特異的な構造を示したタウ、アミロイドβ、αシヌクレインの線維に関するこれまでの研究とは異なるものでした。さらに神経学的に正常な対照者の脳を調べたところ、若年者ではなく高齢者でもTMEM106B線維を発見することができました。このことは、これらの線維が年齢依存的に形成され、疾患の進行に影響を与える可能性があるが、おそらく原因とはならないことを示唆しています。

TMEM106Bアミロイドフィラメントの構造
TMEM106Bアミロイドフィラメントの構造

本研究は、クライオ電子顕微鏡がこれまで知られていなかった線維を発見する能力を持つことを明らかにしました。この研究結果は、疾患発症に対するTMEM106B線維の役割を調べる上で、今後の研究の可能性を示唆します。

長谷川成人プロジェクトリーダーらは、日本ブレインバンクネットの研究者(東京都健康長寿医療センター 齊藤佑子部長、大阪大学 村山繁雄教授、愛知医大 吉田眞理教授、国立精神・神経医療研究センター 高尾昌樹部長、宮崎将行研究員、相模原病院 長谷川一子室長)によって神経病理診断がなされたCBD、AGD、PSP、PD、DLB、MSAの凍結剖検脳からクライオ電験解析のための試料調製を行うと共に、生化学、電子顕微鏡などの解析を実施して構造解明に貢献しました。

本研究の主な助成事業

本研究はJST-CREST「細胞外微粒子により惹起される生体応答の機序解明と制御(細胞外微粒子)」(代表 長谷川成人)、AMED「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト(革新脳)」などの研究助成支援を受けました。

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