東京都医学総合研究所のTopics(研究成果や受賞等)

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2022年4月27日
統合失調症プロジェクトの鈴木一浩協力研究員、宮下光弘副参事研究員、新井誠プロジェクトリーダー及び、社会健康医学研究センターの山崎修道副参事研究員、西田淳志センター長らのグループは「思春期児童における低筋力と精神病症状の関連における終末糖化産物の意義」について「Schizophrenia」に発表しました。

思春期児童における低筋力と精神病症状の縦断関連における
終末糖化産物の意義

当研究所 統合失調症プロジェクト 鈴木一浩協力研究員(現、信州大学医学部精神医学教室精神医療学講座・特任助教)、宮下光弘副参事研究員、新井誠副参事研究員・プロジェクトリーダー、及び、社会健康医学研究センター 山崎修道副参事研究員、西田淳志参事研究員・センター長らのグループは、思春期児童3,000名以上を対象にした出生コホート研究1)から、思春期の低筋力が2年後の終末糖化産物2)(Advanced glycation end-products; AGEs)の蓄積を引き起こすことを明らかにしました。さらに出生コホートのサブサンプルである思春期児童256名のデータを解析した結果、思春期の低筋力が、終末糖化産物の上昇を介して、その後の精神病症状3)と間接的に関連することを明らかにしました。今回の研究結果より、これまで古くから報告されている低筋力と統合失調症との関連性4)において、終末糖化産物の関与が示唆されました。

本研究は、文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究「脳・生活・人生の統合的理解にもとづく思春期からの主体価値発展学」(領域代表:東京大学・笠井清登教授)、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業などの研究助成により実施しました。

この研究成果は、2022年4月27日にネイチャー・パブリッシング・グループ(NPG)が発行する『Schizophrenia』にオンライン掲載されました。

<論文名>
“Role of advanced glycation end products in the longitudinal association between muscular strength and psychotic symptoms among adolescents.”
(思春期児童における低筋力と精神病症状の関連における終末糖化産物の意義)
<発表雑誌>
Schizophr 8, 44 (2022).
DOI:https://doi.org/10.1038/s41537-022-00249-5
URL:https://doi.org/10.1038/s41537-022-00249-5

発表のポイント

  • 思春期児童3,000名以上を対象とした出生コホート研究において、低筋力が尿中ペントシジン(終末糖化産物, AGEs)の蓄積に先行することを明らかにした。
  • 思春期児童256名を対象にした縦断解析によって、低筋力が、尿中ペントシジンの蓄積を介して、思考障害(精神病症状)と間接的に関連することを見出した。
  • 以上の結果から、低筋力がAGEsを上昇させることで、思考障害を引き起こす可能性があると考えられた。

研究の背景

抗精神病薬などの治療薬が開発される以前から、統合失調症では、やせ型や低筋力が多いことが報告されています[1]。また、これまでの大規模なコホート研究において、10代後半の低筋力が、その後の精神疾患発症のリスクであることが報告されています[2]。しかしこれまで、そのメカニズムについて、はっきりとしたことはわかっていませんでした。私達はこれまでに統合失調症の病態にAGEsが関与する可能性を報告してきました[3,4]。また、成人において低筋力とAGEs上昇の関連性が繰り返し指摘されています[5,6]。そこで、今回、私たちは思春期における低筋力がAGEsの上昇を引き起こし、それが精神病症状に関与するのではないかと考えました。

発表内容

本研究は東京ティーンコホート(http://ttcp.umin.jp/)と連携し、3,171名の思春期児童のうち、12歳・14歳時に尿検体を提供していただいた1,542名の思春期児童を対象に研究を行いました。12歳時と2年後の14歳時の2時点で、全身の筋力指標として握力を、全身のAGEsの指標として早朝第一尿中のペントシジン値を測定しました。握力と尿中ペントシジン値の縦断的な解析の結果、12歳時の筋力が低いほど14歳時のAGEsが上昇していました(図1)。本結果より、AGEs上昇が筋力低下を引き起こすのではなく、低筋力が続くことによりAGEsが上昇するということがわかりました。

次に、256名の思春期児童を対象に、12歳時の低筋力が13歳時のAGEs上昇を介して、14歳時の精神病症状の一つである思考障害を引き起こすのではないか、という仮説を検証しました。その結果、12歳時の低筋力が、AGEsの上昇を介して、14歳時の思考障害と間接的に関連することわかりました(図2)。

これまでに低筋力と統合失調症との関連について多くの報告がありますが、今回の研究により、低筋力がAGEs上昇を介して精神病症状を引き起こす可能性があると考えられました。

今後の展開

思春期はストレスが増大するライフステージであり、統合失調症の好発年齢です。統合失調症を発症する可能性が高い状態にある思春期児童に対しては、出来る限り早期に気づいて適切な対処法をともに考えることが大切です。今回の研究結果より、思春期の低筋力が、AGEsの上昇を介して、その後の精神病症状と間接的に関連することがわかりました。精神病症状が持続すると統合失調症発症のリスクになります。思春期から、低筋力やAGEsの値について注意深く様子を見守る意義があるかもしれません。

図1:12歳から14歳にかけての筋力とAGEsの縦断関係
図2:12歳握力、13歳AGEsと14歳思考障害の縦断関係

<用語解説>

1) 出生コホート研究:
ある特定期間に出生した集団を一定期間追跡し,さまざまな要因の縦断的な関係から因果関係を推測する研究手法のこと。
2) 終末糖化産物:
タンパク質と糖が反応して産生される物質の総称。毒性を持ち、老化や 糖尿病等さまざまな疾患との関連が指摘されている。
3) 精神病症状:
主に、現実に存在しないものを感じること(幻覚)や事実ではないことを勘ぐってしまうこと(妄想)などを指し、統合失調症でよくみられる症状だが、思春期の一般人口では6人に1人が経験する。
4) 筋力と統合失調症の関連:
クレッチマー(1988~1964)は、著書において体型と気質の関連に関連があると報告し、細長型において統合失調症になじみのある気質が多いことを報告した。これは抗精神病薬などの薬剤が開発される前の観察結果であり、この関連性は薬剤による影響を受けていないと考えられる。

<引用文献>

  • [1] Kretschmer, E. Physique and Character: an Investigation of the Nature of Constitution and of the Theory of Temperament; with 31 Plates (London: Kegan Paul, Trench, Trubner, 1926).
  • [2] Ortega, F. B., Silventoinen, K., Tynelius, P. & Rasmussen, F. Muscular strength in male adolescents and premature death: cohort study of one million participants. BMJ 345, e7279 (2012).
  • [3] Arai, M. et al. Enhanced carbonyl stress in a subpopulation of schizophrenia. Arch. Gen. Psychiatry 67, 589-597 (2010).
  • [4] Miyashita, M. et al. Fingertip advanced glycation end products and psychotic symptoms among adolescents. Npj Schizophr. 7, 37 (2021).
  • [5] Eguchi, Y. et al. Advanced glycation end products are associated with sarcopenia in older women: aging marker dynamics. J. Women Aging 26, 1-13 (2019).
  • [6] Tabara, Y. et al. Advanced glycation end product accumulation is associated with low skeletal muscle mass, weak muscle strength, and reduced bone density: the Nagahama study. J. Gerontol. A Biol. Sci. Med. Sci. 74, 1446-1453 (2019).

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