2022年12月13日
脳機能再建プロジェクトの兼重美希 研究員(実験当時)と西村幸男 プロジェクトリーダーらは、「意図している運動を増強できる最適な脊髄電気刺激条件を発見」について米国科学雑誌 eLife に発表しました。
脳機能再建プロジェクトの兼重美希 研究員(実験当時、現:京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻 助教)と西村幸男 プロジェクトリーダーらは、脳卒中や脊髄損傷後の後遺症により失われた運動を取り戻す技術として期待されている脊髄への電気刺激において、霊長類(サル)の意図した運動を増強する最適な刺激条件を初めて見出しました。
この研究成果は、2022年12月13日(火)に、米国科学雑誌「eLife」にオンライン掲載されました。
脊髄への電気刺激は、脊髄損傷や脳卒中のような脳から脊髄へ繋がる神経経路が傷害され運動障害を抱える方の運動機能を回復するための技術として期待されています。脊髄損傷や脳卒中患者の中には、脳から脊髄への神経経路が部分的に残っており、わずかながら筋活動を出すことができる方も多くいらっしゃいます。しかしながら、運動中の脊髄刺激が、自身の意図した運動を増強するのか、妨害するのかといった詳細は、体系的に調査されていませんでした。そこで我々はサルが運動制御課題を実施している最中に、頸髄を電気刺激し誘発される上肢の筋反応と手首関節トルクについて調査しました。
2頭のサルが手首の関節トルクを用いた運動制御課題を実施している最中に、脊髄C6-T2領域に埋め込まれた刺激電極の1つを用いて頸髄を電気刺激したところ、150-1350μAの刺激強度は、多くの筋へ同時に筋活動を増す促通効果または筋活動を減らす抑制効果を誘発しました。これらの誘発された筋反応の大きさは、サルが筋活動を出せば出すほど、大きくなりました。更に、サルが自身の手首を使ってトルクを出す方向と同じ方向へ刺激によりトルクが生成されました。すなわち、適切な強度に設定された脊髄電気刺激は、多くの筋を協調させ筋活動およびトルクを増強させることがわかりました。一方で、弱い刺激強度(<150μA)では、サルが意図的に出すトルクの方向とは反対の方向へトルクが生成され、高い刺激強度(≥1350μA)では、サルが出すトルクの方向に関わらず、決まった方向へ刺激によるトルクが生成されました。つまり、これらの強度はサルの意図的な運動を妨害しました。以上のことから、適切な強度(150-1350μA)に設定された脊髄電気刺激が、サルの意図的な運動を促進できることが明らかになりました。
本研究は、150-1350μAの脊髄刺激は、霊長類の筋活動とトルクを増強し、意図している運動を促進することを明らかにしました。健常動物で明らかにされた本研究成果は、脳から脊髄への神経回路が部分的に保存された不完全脊髄損傷や脳卒中患者の運動機能を増強させるために、脊髄電気刺激が有効であることを示唆しています。
本研究は、下記の支援を受けて実施されました。
兼重美希:JSPS KAKENHI (Grant Number: JP18J11771, 20K19377)
西村幸男:JSPS KAKENHI (Grant Number: 18H05287, 18H04038, 20H05489, 20H05713)、JSTムーンショット(Grant Number: JPMJMS2012)