2022年2月5日
脳機能再建プロジェクトの鈴木迪諒研究員、西村幸男プロジェクトリーダーらは「動機づけを司る脳領域が筋活動を生み出すことを発見~心と身体を繋ぐ神経経路~」について「The Journal of Physiology」に発表しました。
当研究所脳機能再建プロジェクトの鈴木迪諒研究員、西村幸男プロジェクトリーダーらは「動機づけを司る脳領域が筋活動を生み出すことを発見~心と身体を繋ぐ神経経路~」について英国科学雑誌「The Journal of Physiology」に発表しました。
動機づけは私たちの行動を大きく左右します。オリンピックでは世界新記録が生まれやすいですが、その背景にはアスリートたちの金メダルに対する強い動機づけが最良のパフォーマンス発揮を支えているのではないかと考えられます。これまでの先行研究によって、動機づけには腹側中脳と呼ばれる脳領域が重要な役割を担うことはわかっていましたが、この領域が運動出力へ影響を与えるのかという点は明らかではありませんでした。
本研究グループは、腹側中脳(腹側被蓋野・黒質緻密部・赤核後部)が運動出力を制御可能な神経基盤を明らかにすることを目的に実験を行いました。
これまで腹側中脳が運動を司る一次運動野に対して投射をもつことは知られていましたが、腹側中脳が筋活動を制御する脊髄にまで投射を伸ばしているかは不明でした。そこで、シナプスを超えて神経経路を標識可能な逆行性神経トレーサーである狂犬病ウイルスを用いて、腹側中脳から脊髄への2シナプス性の神経経路の存在を明らかにしました(図1)。次に、腹側中脳から脊髄への神経経路が筋活動生成に貢献するかを調べるために、腹側中脳を電気刺激によって活性化させました。その結果、腹側中脳の活性化によって、一次運動野と上肢筋の活動が誘発されることを発見しました(図2)。また、刺激強度が高いほど誘発される筋活動は大きくなりました。すなわち、腹側中脳の活動が高くなればなるほど大きな筋活動を生み出せることを意味します。そして、腹側中脳-脊髄の神経経路によって生み出される筋活動に一次運動野が関与しているかを検証しました。一次運動野の活動を薬理的に抑制することによって、腹側中脳の電気刺激によって誘発される筋活動は大きく減弱しました。これは腹側中脳の刺激によって誘発される筋活動には一次運動野が貢献していることを示し、腹側中脳→一次運動野→脊髄→筋という神経経路の伝達が筋活動生成に関わっていることを意味します。
これまで動機づけや意欲が運動パフォーマンスの向上やリハビリによる機能回復には重要であると経験的には言われてきましたが、その根拠となる神経基盤というものは明らかではありませんでした。今回の発見は上記の経験論を支える神経基盤と言えます。今後は実際に動機づけを操作した際に、これらの神経経路の活動が実際の運動パフォーマンスとどのように相関するのかを検証していきます。将来的には動機づけを制御するような技術の開発やそれを用いたアスリート教育、リハビリテーション法の開発への展開が期待されます。
本研究は、京都大学、生理学研究所との共同研究で行われました。