2022年7月20日
社会健康医学研究センター西田淳志センター長、東北大学大学院医学系研究科の精神看護学分野中西三春准教授らの研究グループは「地域の連帯感が認知症に対する理解を育む」について「Journal of Alzheimer’s Disease」に発表しました。
認知症と共に生きる方が生活していくためには、周囲の人々や地域社会の理解と協力が不可欠です。ところがコロナ禍では対人接触も減少し、認知症の人と家族介護者にとっての社会とのつながりも減ってしまっているとの指摘があり、認知症に対する社会の差別や偏見が強まっていることが懸念されています。東北大学大学院医学系研究科の精神看護学分野中西三春准教授、東京都医学総合研究所の社会健康医学研究センター西田淳志センター長を主要メンバーとする研究グループは、東京ティーンコホートの第4期調査のデータを利用し、近い将来、家族ないし周囲に認知症の人を抱える可能性が高い上に、家族の世話で負担の大きい、年頃(16歳)の子どもをもつ母親を対象に、近隣住民の結束力への評価を指標に、認知症に対する態度を質問紙調査で把握しました。その結果、近隣住民の理解・協力・結束力を高く認識している人は、より認知症に対する差別や偏見が少ない態度を表明していました。本研究の結果は、地域の人と連帯できると思えるかが認知症に対する差別や偏見と関連することを明らかにしたものであり、コロナ禍においても地域の連帯感を高めることが認知症の人と共生できる社会づくりに必要であることを示唆しています。
本研究成果は、2022年7月19日にJournal of Alzheimer’s Disease誌(電子版)に掲載されました。
認知症とともに生きる方が生活していくためには、周囲の人々や地域社会の理解と協力が不可欠です。2019年の認知症施策推進大綱注1では、認知症になっても地域で暮らし続けられる共生社会を目指すとうたわれています。一般の中高年人口は近い将来に認知症の人の家族介護者となったり、その同僚や近隣住民となったりする可能性があり、差別や偏見を減らすための戦略の重要な対象です。しかしコロナ禍で対人接触が減少することにより、認知症の人と家族介護者にとっての社会とのつながりも減ってしまっていることが指摘されており、こうした状況で、一般の人の認知症に対する差別や偏見が強まっていることが懸念されています。とくに子どもをもつ女性は、コロナ禍で男性よりも家族の世話のためにより時間を費やさざるを得ず、より心理的な苦痛を感じているといわれています。そのため認知症に対しても介護の面でより強い懸念を感じている可能性があります。
コロナ前後で一般人口における認知症への差別や偏見を定量的に把握した研究はこれまでありませんでした。また差別や偏見の解消につながる要因も明らかではありませんでした。今回、東北大学大学院医学系研究科の精神看護学分野の中西三春(なかにし みはる)准教授、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのマーカス・リチャーズ教授、東京都医学総合研究所の西田淳志(にしだ あつし)・社会健康医学研究センター長らのグループは、東京ティーンコホート注2の第4期調査のデータを用いて、16歳の子どもの母親2,469名における近隣住民の結束力への評価注3と、認知症に対する態度(差別や偏見をあらわす意見に同意するか否か)との関連を検証しました。その結果、調査時期についてコロナ禍前後で回答者を分けて比較した結果、認知症に対する態度の違いはみられませんでした(図1)。一方で、近隣住民の結束力を高く評価している人は、より認知症に対する差別や偏見のない態度を表明していました(図2)。この関係は、認知症に対する態度を自身の考えとして尋ねた場合でも、世間の人がどう思っているかを尋ねた場合でも、一貫してみられました。また多変量解析注4で、母親自身の介護経験の有無、年齢、教育歴、週あたり勤務時間、および調査時期の影響を調整しても、近隣住民の結束力との関係は有意に残りました。
本研究の結果は、地域の人と連帯できると思えるかが、認知症に対する差別や偏見と関連することを明らかにしたものです。認知症施策推進大綱が掲げる共生社会をつくるうえでは、人々に対して認知症に対する理解を求めるのみならず、地域の連帯感を高める戦略をとっていく必要があることが示唆されます。
本研究は、文部科学省科学研究費補助金学術変革領域研究(A)『「当事者化」人間科学:相互作用する個体脳と世界の法則性と物語性の理解』および基盤研究(B)『認知症とともに生きる希望を支えるアドバンス・ケア・プランニングの推進システム開発』の支援を受けて行われました。