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演者 | 石田 晋 教授(北海道大学 大学院 医学研究科 眼科学分野) |
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会場 | 東京都医学総合研究所 2階講堂 |
日時 | 平成28年2月19日(金) 16:00~17:00 |
世話人 | 原田 高幸 参事研究員(視覚病態プロジェクトリーダー) |
参加自由 | 詳細は下記問合せ先まで |
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研究推進課 普及広報係 電話(03)5316-3109 |
糖尿病網膜症の診療は着実に変革を遂げている。手術機器の改良により終末期の増殖網膜症の手術成績は向上し、診断機器の進歩により浮腫性変化の定量が可能になり、分子病態の解明により血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor: VEGF)阻害薬による薬物療法が導入された。これらは、網膜症診療の前線の眼科医にとって画期的な進歩であった。数々の細胞生物学的研究や臨床検体データから網膜症に炎症が関与することが明らかにされ、抗炎症ステロイド薬も使用されるようになった。
また、腎症を含めた全身管理の一環としてレニン-アンジオテンシン系(renin-angiotensin system: RAS)の抑制は、網膜症の発症・進行の防止につながることが複数の臨床試験で複数のRAS抑制薬によって示された。これは血圧に依存しない組織RASの抑制効果と考えられ、網膜症の長期マネージメントにとって組織RASの制御が有益であることを意味する。我々は、網膜症における組織RAS活性化の下流でVEGFを含む血管新生・炎症関連分子が発現誘導されることを明らかにし(Invest Ophthalmol Vis Sci 2005, Invest Ophthalmol Vis Sci 2007)、臨床試験結果の生物学的根拠を示した。
さて、レニンの不活性型前駆体と信じられてきたプロレニンには、特異的受容体が存在する。プロレニン-プロレニン受容体の相互作用は、組織RAS活性化および受容体細胞内シグナル伝達の両者を同時に惹起することがわかり、我々はこの病態システムを受容体結合プロレニン系(receptor-associated prorenin system: RAPS)と命名し (Am J Pathol 2008)、VEGFの上流で糖尿病網膜症病態に関与することを明らかにしてきた(Diabetes 2009, Diabetologia 2012, Br J Ophthalmol 2013)。さらに、プロレニン受容体がピルビン酸デヒドロゲナーゼの分子シャペロンとして好気性エネルギー代謝に関与し、過剰なグルコースによるミトコンドリア酸化ストレスはプロレニン受容体阻害によって抑制されるという、RAPSとは全く別のメカニズムを明らかにした(J Biol Chem 2015)。
本講演では、プロレニン受容体を標的とした糖尿病網膜症治療の理論と展望について紹介する。