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演者 | 北 潔(東京大学大学院・医学系研究科・生物医化学教室 教授) |
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会場 | 東京都医学総合研究所 2階講堂 |
日時 | 平成27年5月22日(金) 16:00 ~ 17:30 |
世話人 | 田中啓二 所長 |
参加自由 | 詳細は下記問合せ先まで |
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研究推進課 普及広報係 電話(03)5316-3109 |
ヒトをはじめとする好気性生物の生存には酸素が不可欠である。一方、宿主体内の低酸素分圧環境に生息する寄生虫は宿主である哺乳類とは大きく異なった独自のエネルギー代謝系を用いて環境に適応している。すなわち寄生虫の種類、寄生環境また寄生様式によって、それぞれ特異的な代謝系を発達させ、そのミトコンドリアの呼吸鎖も極めて多様なものとなっている。また、ほとんどの寄生虫は宿主内ではたとえ周囲の環境中に酸素があってもこの酸素を利用せず、酸化的リン酸化以外の系を用いてATPを合成している。これは、酸素分圧の低い小腸に寄生する回虫、また膣に寄生するトリコモナスなどばかりでなく、酸素が充分存在する血液中に寄生するマラリア原虫や住血吸虫でも同様である。寄生虫のもうひとつの特徴はその生活環において、宿主内への寄生の時期に加え、宿主外の自由生活性の時期の少なくとも二つの時期を持つことである。そして、多くの場合、自由生活性時は哺乳類同様に好気的代謝を行っている。
さらに興味深いことに、多くの寄生虫は宿主体内に侵入した後、すぐに最終の寄生部位に到達はせず、体内移行と呼ばれる「回り道」をする。これは蠕虫ばかりでない。マラリア原虫では、蚊の吸血によって注入されたスポロゾイトは最初から赤血球に感染するのでなく、まず肝臓の細胞に侵入し、そこで数週間増殖を続ける。そして、感染性のメロゾイトとなって血流中に遊離し、最終的な寄生部位である赤血球に入り込む。
そしてこの様な寄生虫の特殊なエネルギー代謝は格好の薬剤標的である。例えば、私達は変異株を用いた研究から、最新の抗マラリア薬アトバコンの標的がミトコンドリアのシトクロムbである事を証明した。また多様性ばかりでなく、その普遍性も明らかになって来た。本セミナーではアフリカトリパノソーマのシアン耐性酸化酵素と回虫のフマル酸呼吸を例にとり、エネルギー代謝の研究からその多様性を示すとともに、ヒトにおいてもある種のがん細胞が特殊な環境においては寄生虫同様のフマル酸呼吸による低酸素適応戦略を利用している事実を紹介する。